2度目の全仏V。マリア・シャラポワを影で支えた日本人の存在 (3ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by Getty Images

 行く先が見えず、不安の最中にいた半年前を、シャラポワはそう振り返る。そうして最終的には、ロジャー・フェデラーらの指導経験を持つスベン・グローネフェルトをコーチに招き、元ラグビー選手のジェローム・ビアンキをフィジオセラピストとして雇った。そのように新スタッフが集まる中、唯一変わらずシャラポワの側に居続けたのが、トレーナーの中村である。

「まだわずかながら残っている、彼女の未開発の能力を引き出す――。それが、私たちチームスタッフの一致した目標でした。それができれば、必ず結果はついてくると信じていました」

 新チーム結成時の指針を、中村はそう明かす。ここで言う「結果」とはもちろん、2013年には手にできなかった、「グランドスラムのタイトル」だ。

 そのなかで中村に求められた役割は、大きく分けてふたつあった。

「ひとつは、彼女が最も得意とする攻撃的なプレイスタイルを重視した上で、フルパワーのプレイを継続できるように、持久力を強化することです」

 持久力を強化すると言っても、どの筋肉をどう鍛えるかは、プレイの特性や戦略に応じて変わってくる。攻撃の際のポジショニングや、異なるコースに打ち分けられるボールへのアプローチの仕方も含め、新コーチのグローネフェルトと、日々徹底的な話し合いがもたれた。

 そしてもうひとつは、「肩に負担が掛からない動きの確立」だ。この方針に関しては、フィジオ(物理療法士)との連携が不可欠になる。古傷である肩に負担を掛けないためには、どのようなトレーニングが必要なのか? それらを綿密にフィジオと話し合い、「体幹や、下半身の部位の動きの効率性向上を追求した」と中村は言う。

 それぞれのエキスパートが互いを尊重し、連携してマリア・シャラポワという血統書付きのサラブレッドに向き合ったプロセスが、中村の言葉から浮き上がってくる。誰かひとりが欠けても、歯車はかみ合わない。ひとつ歯車が食い違えば、全体が崩壊しかねない。チーム全員が同じ青写真を見ることを意識して、強化は進んでいった。

 このように「チーム・シャラポワ」は熟練のプロ集団ではあるが、それでも成果が表れるまでには、それ相応の時間を要した。今年1月の全豪オープンでは、4回戦で当時世界ランキング24位のドミニカ・チブルコバ(スロバキア)に敗れている。3月のインディアンウェルズ大会では、3回戦で79位のカミラ・ジョルジ(イタリア)に金星を献上した。

「非常に苦しく、本当に厳しい時期でした」

 シャラポワが毅然とした仮面を被って隠してきた、苦しみの日々の真実――。シャラポワが抱えた苦しみは、チーム全体の痛みでもある。中村の言葉を借りれば、「『俺たちはできる!』と、なかば自己暗示をかけていた時期」でもあった。

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