「クレー大嫌い!」のクルム伊達が43歳で見えてきたもの (3ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

 難関すぎる思考回路を言葉にしながら苦笑を浮かべ、そして、彼女はこう続ける。

「常に、何か考えています。昔の10倍は考えています!」

 クレーで苦しみ、考え抜いたその経験は、次なる戦いへの布石となる。彼女の言葉に耳を傾け、表情に視線を送ると、結局は苦しみや苦手意識すらモチベーションとなり、情熱が衰える気配はまるでない。

 今もまだ、高いモチベーションを維持できる理由は、どこにあるのか――? もはや聞き飽きたであろうその問いにも、クルム伊達は新鮮さに満ちた表情で、こう答えた。

「私の場合は年齢のことも踏まえ、ある程度、自分をコントロールすることが若い選手よりできる。そういう意味ではモチベーションも、どこか自分で、何か理由を持って線を引かない限りは下がらないのではと思います。基本的には、勝負が好き。簡単ではないことばかりだし、基本的に負けるのは嫌いだけれど、今はテニスをやって若い選手に立ち向かい、どこまでできるのかというのが、私にとってのモチベーション」

 それに、不思議なんですけれど――。

 ひと呼吸ついてそう言うと、彼女は虚空に目を向けて、昔を懐かしむような、どこか照れくさそうな笑みを浮かべながら、こうも続けた。

「あんなに昔は練習もランニングも嫌いだったのに、今はどんなに疲れていても、練習をやりたくないという日がないんです。若い時に感じられなかったことを、倍以上すべて受け入れて楽しめているので、それに何も不満がない。今、戦える場所があって、テニスが楽しくて、ツアーが楽しくて。20代のころにできなかったものを、一生懸命取り戻しているのかも」

若いころから苦手だったクレーにも、今はきっと、20代のころには見えなかった何かが彼女には見えている。だからこそ、どんなに足もとが滑り、どんなにイレギュラーが多い赤土の上ですら、クルム伊達の戦う姿は、どこまでもポジティブだ。その楽しさや充実感は、もはや理屈ではないのだろう。

「何かと言われると難しいけれど、すべての時間が楽しい。それを持続させることが目標かな?」

 明朗な口調で今後の目標を述べると、少し小首をかしげながら、彼女は最後に、こう付けくわえた。

「なんか、自分でも変ですけれどね」


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