ナダル&ジョコビッチが語る「錦織圭、全仏大躍進の可能性」

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

「1年のうち、ローランギャロス(全仏オープン)開幕前の1週間が、一番忙しいんだよ。大会プレビューをたくさん書かなくちゃいけないからね」

 フランスの権威ある日刊スポーツ紙『レキップ』の記者はそう言うと、テニスコートとプレスルームの間をせわしなく往復しては、小まめに上司に電話を入れている。そんな記者の口からは、しきりに「ニシコリ」の名が発せられた。

マドリッド大会では途中棄権するまでナダル(右)を追い詰めるプレイを見せた錦織圭(左)マドリッド大会では途中棄権するまでナダル(右)を追い詰めるプレイを見せた錦織圭(左)「ニシコリの代理人とは、どうすれば連絡が取れる?」
「ニシコリのコーチやトレーナーに取材したいんだ」
「マイケル・チャンの話は聞けるかな?」

 同紙の記者としてテニスを25年間取材し続けているビンセント・コネット氏は、全仏オープンの注目選手として、錦織圭の特集を組む計画を立てているのだと言う。

 なぜ、錦織なのか――?

 コネット氏は派手な身振り手振りつきで、文字通り口角泡を飛ばしながら、その理由を熱っぽくこう語った。

「だって、彼は今年のクレーコートシーズンで最も活躍した選手のひとりじゃないか! バルセロナで優勝し、マドリッドでは準優勝。しかも決勝では、ナダルをもう少しで倒すところまで行ったんだ。プレイスタイルもユニークだし、興味深い。ケイのライバルの若手たちはみな、大柄でサービスが速い。対してケイは、とても動きが速く強烈なカウンターの持ち主。対照的なライバルの対決は、見ていてワクワクするだろう?

 それにね、彼は僕の予想をことごとく覆(くつがえ)してきたんだ。僕はテニスのエキスパートを自負しているけれど、正直、5年ほど前から、今後はどんなに才能のある選手でも、小柄ではトップには行けないと思っていた。でも、僕は間違っていた。さらに僕は、ケイはクレーでの活躍は無理だと思っていた。それも間違っていたわけだ」

 自分の「間違い」を嬉しそうに話すコネット記者の興奮は、そのまま、テニスファンや関係者たちの高揚感と重なるものだ。ちなみに、『レキップ』紙が選出する「年間最優秀アスリート」の歴史を振り返ると、過去10年間でロジャー・フェデラー(スイス)が3回、ラファエル・ナダル(スペイン)が2回受賞している。『レキップ』はテニスを重んじる新聞であり、フランスという国もテニスへの熱量と理解度の高い土地柄だ。その国のテニス好事家やジャーナリストたちが、今、最も熱い視線を送るのが、錦織圭なのである。

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