「ふたつの軸」で選手強化。日本テニス界に飛躍の兆し (3ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki 神仁司●写真 photo by Ko Hitoshi

 添田や伊藤たちは、組織的な強化策の成功例だ。彼らは2008年に完成したナショナルトレーニングセンター(東京都北区)を練習拠点とし、重点強化選手として指導者たちのサポートを受けつつ、互いの背を見て切磋琢磨し、ここまで来た。現在は自身で海外のコーチを雇う伊藤だが、ナショナルコーチが帯同してくれた時期を、「普段から練習を見てくれているコーチたちが、海外遠征について来てくれるのは心強かった。英語がほとんどできない時は、やはり日本語での指導が大きかった」と振り返る。

 そして日本は今後、ナショナルチームの強化対象を拡大し、より若い世代からサポートを開始する予定だという。

「現在の強化選手たちにトレーナーとコーチをつけ、個々で転戦させるのは継続する。それに加えて今後は、18~21歳を『ユース』、その下の16~18歳を『プレ・ユース』とし、チームとして海外のジュニア大会やフューチャーズ(下部ツアー)を回っていくことを考えています。国内の練習拠点確保と、チームとしての海外遠征。このふたつの方向性で強化をしていきます」

 2020年の東京オリンピックも念頭に入れた上で、植田監督はそのような青写真を口にした。

 さらには、これもテニスそのものの人気や注目度が上がった効果だろうか――、日本国内でもテニスを支援する企業の動きが見えてきている。最近でその最たるものが、今年4月から女子ナンバー1選手の奈良くるみ(43位)の所属先となり、同時に奈良のコーチである原田夏希も社員雇用した安藤証券だ。同社は、社長がテニス関係者たちに知己(ちき)が多い縁もあり、昨年、利潤の一部を協会に「強化費」として寄付するファンドを設立。また、先出の奈良や原田に加え、森田あゆみ(112位)のスポンサーにもなるなど、個々の選手や指導者を積極的に支援している。一企業がこのような形でテニスに寄与するのは前例のないことだが、強化とビジネスの両面で成果が得られれば、追随の動きが見られるかもしれない。

 日本のテニスは現在、過去にないほどの話題性と、結果を次々に生み出している。

 デビスカップでベスト8に入った。今年2月には錦織と奈良がそろってツアー優勝を果たした。そして、クルム伊達公子という世界レベルで話題性豊かなスターもいる。

 錦織が出演している某社のCMではないが、今こそ、未来への種を撒く時である――。

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