2014シーズン開幕。クルム伊達公子は2013年を越えられるか?

  • 神 仁司●文・撮影 text&photo by Ko Hitoshi

 結局、現在の絶対女王に3回戦で敗れはしたが、「セリーナとハードコートでもう1回戦ってみたい」と、新たなモチベーションを見出したことは、クルム伊達にとって大きな収穫だった(ウインブルドンは芝のコート)。

「一番良いシーズン、と言いきれるかどうかわかりませんけど、ベストに近い。グランドスラムは特別なだけに、そこでいいパフォーマンスが2回できたことは、もちろん悪い結果ではない。再チャレンジ後に、3回戦(進出)まで行けるとは思ってもいなかったので、いいシーズンだったと思う」

 こう振り返ったクルム伊達は、WTAランキング54位でシーズンをフィニッシュした。

 42歳のクルム伊達が好結果を残せた最大の要因は、13年に大きなケガがなかったことだ。

 もちろんまったくケガがなかったわけではない。右アキレス腱痛は、持病のようなもので断続的に彼女を悩ませた。13年シーズンでも1月から不安を抱え、全豪シングルス3回戦(1月)や、フェドカップ・ロシア戦(2月)、USオープン直前(8月)で再発したが、大会出場をキャンセルしなければならないような大事には至らなかった。

 ではなぜ、大きなケガにならずにすんだのか。それは、過去に戦列を離れた苦い経験を踏まえ、ケガに対していつも心がけている対策があったからだ。ツアーを回っていると、少しでも多くの試合をこなして、無理に戦おうとしてしまうが、13年シーズンは「ケガの状態をできるだけ小さくしておいて、大きなケガにならないようにする」ために「プレーをしない勇気」が必要だと感じていた。つまり、出場する試合を厳選してコンディションの維持に努めてきたのである。

 だからといって、トレーニングを怠るようなことはなかった。クルム伊達の姿勢を、かつて日本チームで一緒に戦った元フェドカップ日本代表監督の村上武資氏は、次のように語る。

「どの選手よりもやるべきことをやっている」

 クルム伊達は、真摯にテニスと向き合うプロフェッショナルな姿勢で、モチベーションを高く維持し、常に自分の体と向き合いながら日々のトレーニングに取り組み続けている。その積み重ねこそが、ケガを最小限に抑え、厳しい海外転戦に耐え得る心と体のベースになっている。

 WTAワールドテニスツアーの2014年シーズンは、すでに開幕している。2013年9月に43歳になったクルム伊達の新シーズンは、12月29日からのWTAブリスベン大会から始動した(1回戦を突破)。その1週間後には、テニスメジャーの初戦となるオーストラリアンオープン(全豪)の開幕を1月13日に控えている。

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