【テニス】ツアー3勝目の錦織圭「優勝は当たり前じゃなくてはいけない」 (2ページ目)

  • 内田 暁●文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 東京での優勝から期間をあけず、再びツアー500で勝てたことには、どんな意味があるか----?

 全米室内選手権の優勝後、地元メディアからそう聞かれたテニス界のホープは、淡々とした口調で答える。「この優勝は僕にとって、大きなステップ。500ポイントを得られるのは、『トップ10に入る』という今年の目標を達成する上でも、大きな意味を持つ」と。

 さらには、このような興味深いコメントも残した。

「ランキング的にも、(優勝することが)当たり前じゃなくてはいけない。良い意味で喜びも薄れてきた」

 たしかに現在、錦織と同じようなランキングで、似た時期にプロへ転向した選手たちの優勝回数を見てみると、ミロシュ・ラオニッチ(カナダ/18位)の4回や、今回のメンフィス大会準々決勝で下したマリン・チリッチ(クロアチア/11位)の9回など、すでにライバルたちも複数回のタイトルを手にしている。そんな中、現在世界ランキング16位の錦織は、これら同世代の馬群から抜け出し、トップ10への乱入を狙っているのだ。「これくらいは当然」という意識になること自体が、彼にとっては当然なのだろう。

 もちろん、錦織自身がそのように感じられるほどに、彼の成長は明らかだ。たとえば技術面では、今年に入ってからサービスで格段の改善を見せている。2011年春ごろから本格的に改良に取り組み、幾度かの変更を経てきたサービスフォームは、ここに来てほぼ固まり、強化されたフィジカルと結びつくことでスピードと安定感が大きく向上した。今大会の決勝戦では、ファーストサービスの78%をポイントにつなげた錦織だが、特筆すべきは、セカンドサーブでのポイント獲得率も80%を記録していることだ。また、サービスの安定感が、リターンでの積極性にもつながるのだろう。「自分のサービスゲームに不安はない。だから早い段階でブレイクし、リードを奪うと、リラックスできる」と振り返るように、サービスでの自信が心の強さを喚起する好循環も生まれている。

「トップ10を倒すためにやるべきことは多いけれど、それを乗り越えていけば、テニスの楽しみも増えていくと思います」とは、今年1月の全豪オープンで錦織が残した言葉だ。『ビッグ4』が支配する現在の男子テニスは史上最高レベルだと言われ、上位陣による長期政権は、なんとランキング200位以内に10代選手がいないという異常事態まで引き起こしている。だが、その若手受難の時代にあって、トップ10という未踏の地への挑戦を、錦織は「楽しみ」だと断じるのだ。

 成長するとは、強くなるとは、こういうことだ。

※世界ランキングは2月27日現在

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