【テニス】ジョコビッチ、43年ぶりグランドスラム達成のカギは?

  • 内田 暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 これらの歴史が示す通り、不慮のアクシデントや時代の巡り合わせなど、グランドスラムを阻む要素は至るところに潜み、偉大なる選手たちの足もとに絡みつく。特に、全仏だけを取り逃がした前例が過去に多いのは、クレーというコートの特異性にあり、そしてクレーを大の得意とするスペシャリストたちの存在にある。その事実を多大なる痛みとともに熟知するフェデラーは、「ラファ(ナダル)がいる今の時代では、全仏から始めて全豪で終えるのが、最も高確率なグランドスラムへの道」と提言した。このフェデラーの文脈になぞるなら、ジョコビッチは最も険しき道をたどって、記録へと挑んでいることになる。
 
 今大会、その困難な道のりの第一歩を、世界1位の男は大観衆が見守る中、ストレート勝ちという最高の形で踏み出した。試合後、インタビュールームを埋め尽くした報道陣の数は、その注目度の高さを示し、同時にプレッシャーにも比例しているだろう。

 だが、テニス界の頂点に立つ男は、重圧から目を逸らすのを、潔(いさぎよ)しとはしなかった。いかにプレッシャーを軽減するのかと問われ、ジョコビッチはこう言い放った。

「プレッシャーは常にあるものだ。そして僕は、プレッシャーは特権だと思っている」

 志し半ばに敗れた先達らの想いを巻き込み、日々のしかかる歴史の重み――。その重圧に2週間耐えたとき、ジョコビッチは半世紀にひとりだけの、特権的な歓喜と栄誉をその手にする。

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