【テニス】すべてが手本。
クルム伊達公子が若手に伝える世界で戦う「経験値」

  • 神仁司●取材・文 text by Ko Hitoshi
  • photo by Ko Hitoshi

「普段からするとあり得ないぐらい着込んだ(笑)。もともと寒がりで冷え性。私にとってはかなり苦痛の時間でした」

 クルム伊達は、シャツを3枚着込んだうえに、ロングスパッツも着用してプレイしたが、第1セットでは流れをつかみきれないままでいた。

 さらに、試合前に考えていたヘルツォグのフォアサイドにボールを集める戦術が機能しなかった。そこでクルム伊達は、直線的な弾道を描くカウンターショットを生かして、相手のバックサイドへ打つ戦術に変更。こうした作戦変更はテニスで"プランB"と言われるが、それを試合中にすぐに遂行できるあたりは、経験豊富なベテランならではだ。また、第2セット第9ゲームでサービスブレークに成功すると、ヘルツォグの集中力が落ちたのを見逃さず、そこから一気にギアを上げて逆転勝ちに成功した。

「フラットなボールが速く飛んで来て、ボールのバウンドが低く、プレイしづらかった。リターンもすごく良かった。公子は経験豊富な選手だ」

 21歳のヘルツォグは脱帽せざるを得なかった。クルム伊達の勝負どころでの粘りと切り替えのうまさは、41歳になった今でもまったく衰えていない。

「先に1勝を挙げれば、チームのモチベーションを上げることができる。ナンバー2の役割は果たせたと思う」

 このクルム伊達の1勝をきっかけに、続くエースの森田が「伊達さんが相手のナンバー1に勝ってくれたので、何としてでも勝ちたい試合だった」と奮起。初日と翌日の2試合で2勝を挙げて日本の勝利を確定させると、最終的には5戦全勝で日本がワールドグループIプレイオフ進出を決めた。村上監督は「今回のキーは、第1試合の大逆転だったと思います。その流れを、森田が引き継いでくれた」と勝因を挙げた。

 今回、20歳で日本代表シングルスデビューを飾り、初戦を勝利で飾った奈良くるみも、「一緒に練習したり、チームとして1週間一緒に生活したりする中で、伊達さんと森田さんのプレイを見て、近いうちに自分も勝負のかかるシングルスに出たいと思った」と決意を新たにしていた。

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