ラグビー福岡堅樹の引退に「よう決断したね」。ラストマッチへ恩師からのエール

  • 松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu
  • 井田新輔●写真 photo by Ida Shinsuke

 だが、2015年のラグビーワールドカップ(W杯)では、唯一出場したスコットランド戦で大敗を喫した。ノートライ。挫折だった。

 いや、良き経験だった。屈辱を糧とし、福岡は日々、精進した。2016年春、パナソニックとプロ契約を結び、夏のリオデジャネイロ五輪(7人制ラグビー)にも出場した。

 さらにまた、福岡は2019年のラグビーW杯では値千金の4トライを記録した。国代表戦出場を示す数字が38キャップ。福岡のベストパフォーマンスは?と聞けば、森重隆会長は2019年W杯のアイルランド戦の高いボールのキャッチング、スコットランド戦の2トライをあげた。

「あんなもん、俺は絶対、教えとらんよ。だって、俺がしきらんもん(できないもん)。いずれにしろ、具体的なワンプレーを思い出させるというのがすごかよね」

 無論、その活躍もチームメイトがいたからこそだろう。「俺が一番大事に教えたことは、"後輩をかわいがれ、先輩を敬え"ということだけだった」と少し笑った。

「ほんと、チームに恵まれたね。筑波大も、パナソニックも、日本代表も、周りの連中が偉かったと思うよ。ま、ケンキは愛されキャラやもん」

 福岡は今春、順天堂大学医学部に入学した。「文武両道」を実践してきた。パナソニックの練習と、大学の授業の両立を図ってきた。その集中力。森重隆会長は、「フッコウ(福岡高校)の株があがったね」とうれしそうに漏らし、こう続けた。「ラグビーのイメージもあがったとよ」

 福岡堅樹は"第二の人生"を歩むことになる。自身のキャリアプランでは、6年間勉強して、2年ほどの研修を積み、30歳代半ばで医者になる。森重隆会長は、「人間の幅」をもっと広げてほしいと言葉を足した。

「もっともっと、人間を磨いて、立派な医者になってほしい。立派とは、手術のうまさとか、テクニックじゃない。患者さんに信頼される、好かれる医者になってほしい。"ケンキさんはすばらしい人です"と言われるような医者になってほしい」

 義理人情浪花節。人としての価値はやはり、人間力。69歳の森重隆会長は、どこまでも、28歳の教え子の人間的成長を願っていた。

               (了)

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