小結・慶大が横綱・明大を破るサプライズ。劇的サヨナラPGまでの道程 (2ページ目)

  • 松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu
  • 長尾亜紀● photo by Nagao Aki

 そして、10-12とされてのロスタイムだった。またもブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)で反則をもらった。ゴールから25mあたりの右中間。極度の重圧の中、PGをルーキー山田が落ち着いて蹴りこんだ。

 実はロック(LO)の相部開哉(あいべ・かいと)主将はまだ、試合時間が残っていると思っていたそうだ。「入ったら、残り時間を使うため、どうしようかなと考えていました」と笑った。

「(ノーサイドに)びっくりしました。我慢し続けてよかったな。自分たち(試合メンバー)23人だけじゃなく、部員全員の努力が報われたな、と思ったんです」

 地味ながらも猛タックルを連発した177cmのロック、北村裕輝はこうだ。

「もう、うれしくて。苦しい時間帯もあって、うまくいかないこともあった。でも、これまで準備してきたことを、80分間、やり切ることができました」

 明大の長身ロックに対抗するため、ラインアウトでは低い前方に合わせるなど工夫していた。それが奏功した。

 慶大は創部120周年目の昨季、大学選手権の出場を逃した。22年ぶりの屈辱だった。慶大で大学日本一も経験した栗原監督にとっては、試練のスタートとなった。

 サントリーでエディー・ジョーンズ氏(現・イングランド代表ヘッドコーチ)ら名指導者の元で育った栗原監督は、伝統にこだわらず、早大のコーチを務めていた元東芝の三井大祐氏をバックスコーチに招いた。科学的なラグビー理論や戦術を学生に落とし込み、自主的な成長を促した。

 昨季、不振だったことで、新チームのスタートはどこよりも早く、昨年12月にスタートできた。基礎体力、基本スキルの習熟にあてた。相部主将は「今年のチームはポジティブにとらえれば、他チームより準備期間が多くなりました」と説明する。

「結果として、全体がコロナの影響で準備期間が短くなった中、自分たちは(相対的に)長く時間をとれました。(昨年)12月に始めた分、基礎の部分を土台として固めてきたので、そこが今、生きているのかなと思います」

 新型コロナの影響で、慶大は他チーム同様、3月末から5月まで、全体の活動を自粛した。6月初めから日吉のグラウンドでほぼ自主練習に近い形で練習が再開され、7月から本格的な練習ができるようになった。伝統の山梨・山中湖の「地獄の夏合宿」は中止となったが、新型コロナの感染症対策を施しながらの練習でチーム力は徐々に上がってきた。

 9月中旬には明大と合同練習をやり、30分ハーフの実戦練習では「パニック状態で、やられました」(栗原監督)。やっとで10月に始まった異例のシーズンでは、初戦で筑波大に敗れ、練習は厳しさを増した。

 ことしは形骸化しがちなチームスローガンは掲げず、「常に全力で」「指摘し合う」という行動指針を定めた。相部主将はこの日、「挑戦」を強調した。

「チャレンジャー・マインドで挑みました。自分たちにフォーカスし、最高の結果になった。課題もいっぱいあったので、これから修正していきたい」

 勝っておごらず、負けてひるまず。タイガー軍団復活へ、ひたむきな慶大のチャレンジがつづく。

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