吉田義人が演出。W杯の伝説トライ「クロヒョウになると念じていた」 (4ページ目)

  • 松瀬 学●文 text Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●写真 photo by Saito Ryutaro

――今年の日本代表はウルフパックとサンウルブズの2つのチーム編成で強化してきました。これはどう、お感じになりましたか。

「周りからもよく聞かれます。特にウルフパックに日本代表になりそうな選手を持って行ったような印象ですが、これまでの強化試合の相手がスーパーラグビーの2軍でした。この試合をどう評価するかでしょう。スコアではなく、プレーの質についてです。層を厚くするのはとても大事なことです。条件を満たして入ってくる外国出身選手と、日本人の代表選手を、本気のテストマッチ並みの試合で戦わせるなどして、融合させる時間がもっと必要だったような気もします。でも、ジェイミー(ジョセフ=ヘッドコーチ)はジェイミーで、ラグビーの強豪国ニュージーランドで育って、日本の代表にもなった男ですから、そこはきっちり考えているでしょう。もう信じるしかありません。今後はフィジー(7月)、トンガ(8月)、米国(8月)、南アフリカ(9月)と対戦しますが、これらの試合を現状のベストパフォーマンスで戦ってほしいですね」

――日本代表が本大会であたるスコットランド、アイルランドについて、今年の初めに行なわれたシックス・ネーションズ(欧州6カ国対抗)ではどう感じましたか。

「スコットランドもアイルランドもきちっと満を持した状態で、プライドをもってワールドカップに乗り込んでくるでしょう。とくにアイルランドは強い、スキがない。アイルランドは選手層も厚く、けが人が出てもチーム力はそう変わらないでしょう。その他、欧州勢では、ウェールズはグランドスラムを達成し、充実している。優勝争いにはイングランドも絡んでくるでしょう。フランスもわかりませんよ。どの国も強豪国で楽しみです」

――日本代表はどう、見ていますか。

「やっぱり日本には、トライを取り切れる攻撃力がある。前回大会と違うところは、キックのオプションを多彩に持っているところでしょう。前に出ながら、外側にボールをうまくスムーズに運べる。そのスキルが高くなった。外側にトライを取りきれるスピードスターがいる。ものすごくおもしろいいラグビーができると思います」

――スピードスターとは、WTB(ウイング)の福岡堅樹選手のことですよね。

「彼はボールを持たせたら、相手にとっては怖い存在になります。彼が持って走ると景色が変わる。相手に確実に脅威を与えられます。すごく期待しています。今回、日本のエースとして存在感を示してくれるはずです。この大会が最後だという思いもあるだろうし、今までのラグビーの集大成を、という強い想いは必ずいい方向に出ますよ。彼の感謝を忘れない謙虚な気持ちには確実にいろんな力が宿ります、きっと」

――勝負の肝は。

「得点はある程度、取れると思います。ただ、得点を取っても、勝負はディフェンスですよね。ディフェンスにおいて、フィジカルバトルを耐えられるか。そこは、日々の練習をどれだけつらい状況を想定して鍛錬してきたかでしょう。首脳陣もキャプテンも選手も、どれだけ、ディフェンスに自信をもってやれるか、です。相手も勝つために全力で挑んでくるし、力が拮抗したチーム同士なら必ず修羅場が訪れる。その時、自分の力を信じ、仲間を信頼し、"チームのために"と思えるかどうかです。そういった信頼関係を築き上げることができるかどうか、なのです」

『矜持』、ラグビー人生を貫いてきたものを問えば、吉田義人さんはそう短く答えた。プライドとは似て非なるものだそうだ。プライドより意味合いは、深く、かつ重い。使命感、責任、義務、正義...。

 最後、日本代表へのメッセージを聞いた。吉田義人さんは背筋を伸ばし、こう口にした。簡潔な言葉に熱い思いを注ぎ込む。

「ジャパンよ、日本の侍として、矜持を持って戦え」

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