五郎丸歩が語る南ア戦勝利「相手の勝ちたい姿勢が日本に力をくれた」 (3ページ目)

  • 松瀬 学●文 text Matsuse Manabu
  • 築田純●撮影 photo by Tsukida Jun

――その前、相手は29-29からPGで3点差としました。以前、「その時に勝てるなと実感した」と話をしていましたよね。「仙豆(せんず)をくれて、めちゃくちゃ元気になった」と。

「漫画『ドラゴンボール』に出てくる不思議な豆で、からだが弱った時にひと粒食べるとすごく元気になる豆ですね。あの時、めちゃくちゃ疲れていたけれど、あのPGで、ああ、これはもう"イケるでしょ"って。元気になったんです」

――エネルギーをもらったんですね。

「南アフリカとか、ニュージーランドとか、オーストラリアとか、すごい雲の上の人たちだったのに、そんな人たちが必死に勝ちにきたというか、試合を置きにきたというか、3点差でもいいから勝ちたいという姿勢が逆に僕らに力をくれたような気がします。あの南アフリカがショットを狙って3点かって」

――最後は、WTB(ウイング)のカーン・ヘスケスが左隅に飛び込みました。逆転のトライです。その瞬間は。

「覚えています。ぼくは右端にいたんです。すごく遠くでみんなが抱き合っていて、"やったんだな"って。スタジアムの雰囲気とか、最高でしたね」

――試合後の「ミックスゾーン」と呼ばれる取材エリア。たしか、記者の誰かが「奇跡」という言葉を使ったら、五郎丸さんは「奇跡でも偶然でもない、必然です」と言いました。カッコよかったですね。

「ぼくは3歳からラグビーをやっているので、力の差が確実に出るスポーツがラグビーだとわかっているんです。サッカーみたいに1点決めて守り切る、みたいなことはできません。フィジカルスポーツでコンタクトもある。弱いところを隠せないんです。あのフィジカルが一番強い南アフリカに勝ったということは奇跡であるはずがありません。それまでの準備を含めて、やれることは全部やったんです。僕らは南アフリカの選手が寝ている間、朝早くに起きて練習をやってきたんです。いまだに奇跡、奇跡と言われますけど。まあ、神話っぽくしていたほうが受け継がれるのかなって、最近思いますが」

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