スタイル変更も前への精神は不変。22年ぶりVで明大が新時代を築く (5ページ目)

  • 松瀬 学●文 text Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●写真 photo by Saito Ryutaro

 ラインアウトから紫紺のジャージの9番の福田がボールを持ち出して、左に走った。そこに、「X」のごとく、交差するようにWTB高橋が駆け込んだ。高橋はそのままタテに切れ込み、中央に飛び込んだ。ゴールも決まり、12-5とリードした。

 高橋が痛快そうに笑う。

「狙い通りでした。(走り抜けて)気持ちよかったです」

 勝負の最大のポイントだったスクラムでは、明大は持ち前の「修正力」を見せた。天理大の低くて強固な押しに苦労し、序盤は相手ボールのスクラムでコラプシング(故意に崩す行為)の反則を相次いでとられた。武井によると、フロントロー陣が食い込まれてはじき出されていたためだが、すぐに連携をとり、ヒット勝負に出て後ろ5人の押しをもらうこと、相手の首を抑えて低く沈むことを確認し合ったそうだ。

 武井がこう振り返る。

「横のまとまり、結束も意識しました。そしてスクラムも前へ、です」

 今季のシーズンを振り返ると、チーム作りのカギは対抗戦で慶応大学、早稲田大学に敗れた後にあっただろう。対抗戦4位扱いとなり、大学選手権ではノーシードとされた。選手が自信を無くしてもおかしくなかった。

 だが、大学選手権前、田中監督はミーティングで故・北島忠治元監督の写真を部員たちに見せたという。

「この人を誰か知っているか?」

 当然、みんな知っていた。「有名な言葉は何だ?」と聞いた。

 ラグビー部の寮の食堂には「前へ」との言葉が掲げられている。田中監督が思い出す。

「"前へ"という言葉は知っていたので、それはどういうことだと思うと聞いたんです。僕は前へというのはプレースタイルというより、生き方というか、哲学みたいなものだと思うと説明しました。4位という状況だけど、そこから逃げないで進んでいくという話をしたんです」

 そのコトバ通り、「前へ」とは、どんな状況でも前に出る。苦境にあっても、自分で道を切り開く。新しい時代を創り出す気概を言うのであろう。

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