早慶戦は劇的フィナーレ。そこには4年生の矜持とドラマがあった (2ページ目)

  • 斉藤健仁●取材・文・撮影 text & photo by Saito Kenji

 残り時間を考えると、5点のトライを挙げないと勝利できない早稲田は、4年生の控えFWを3人投入。「最後まで勝つことを信じて、選手を信じていました」と、相良監督は冷静にピッチを見つめた。しかし後半39分、ハーフウェイライン付近のラインアウトでボールをまっすぐ投げ入れることができず、まさかのノットストレートの反則。万事休す......と思われた。

 残り30秒、慶応ボールのスクラムで試合は再開。慶応だけでなく、スタジアムに詰めかけた大勢のファンもタイガー軍団の勝利を確信していたはずだ。スクラムからボールを出して、タッチに蹴ればよかった。前半からスクラムも優勢だった。だが、組み直しの後、早稲田の圧力に慶応の右PRがたまらずひざをついてしまい、レフェリーの手が上がる。

 控えから出場したPR(プロップ)千野健斗、峨家直也、そしてキャプテンFL(フランカー)佐藤真吾――4年生FWの3人がプライドを見せた瞬間だった。相良監督はその時、「正直、まだ風があるなと思いました」と振り返る。

 そして、80分を超えて試合終了のホーンが鳴り、ラストプレーのチャンス。かろうじて生き残った早稲田は、ラインアウトからFWとBKが一体となってアタックを仕掛ける。

 すでに時計は84分を回っていた。だが、アタックを継続して23フェイズ目にアドバンテージをもらった早稲田は、ループを使って積極的に右へと展開。SO岸岡智樹(3年)→WTB長田智希(1年)とつなぎ、最後は左サイドから右サイドに回り込んでいた佐々木へとボールが回る。

「自分でボールを呼び込みました。もしタッチに出たり、ノックオンしたら、自分のプレーで4年間が終わってしまう。絶対に取り切る」。佐々木が魂のこもった走りで劇的な逆転トライを決め、早稲田が20−19で慶応を下した。

 佐々木は4年になって、若手の台頭でベンチを温めることも多くなっていた。ディフェンスが少々苦手だったことに加え、「慢心があったのかも......」と当時を振り返る。しかし、佐々木はクサることなく毎日ウェイトトレーニングに取り組み、練習後もニュージーランドの強豪チームのビデオを見て勉強するなど、日々研鑽を積んだ。

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