ラグビーW杯日本大会への試金石。
NZ対豪州には3つの価値があった

  • 松瀬学●文 text by Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●写真 photo by Saito Ryutaro

 ともに選手がよく動く。献身的に素早くひたむきに。ボールも生き物のようによく動いた。強じんなフィジカル、高いスキル、リズミカルなテンポ。スクラムでは合計900kg近くの固まりが低く、結束してぶつかった。

 ゲームを制圧したのは、RWC2連覇中のラグビー王国NZである。身体に沁みついた基本技、ディシプリン(規律)、そして「先を読む力」により長けていた。スティーブ・ハンセンHC(ヘッドコーチ)は満足そうだった。

「いいランニングラグビーを日本の皆さんに見てもらいたかった。いいゲームができた。観客も楽しんでくれたと思う」

 先を読む力でいえば、危機管理能力もそうである。本能ゆえか、豊富な運動量ゆえか。とくにLO(ロック)陣。開始直後、NZは豪州の怒涛(どとう)の攻めを受けた。右に振られれば、105キャップ(国代表戦出場数)の左LO、202cmのサム・ホワイトロックが猛タックルを浴びせた。

 ラックから左に回され、豪州にボールをつながれた。最後はFB(フルバック)デーン・ハイレットペティにライン際を走られ、左隅に飛び込まれた。トライかと見えた瞬間、懸命に戻ったNZの右LO、197cmのスコット・バレットが両腕を相手FBの腰に巻き込んで押し倒した。ノックオンを誘い、窮地を脱する。

 後半開始直後もそうだった。豪州に連続攻撃を浴び、LOのロブ・シモンズにゴールラインを越えられたが、黒衣の男たちはグラウンディングを許さなかった。司令塔のSO(スタンドオフ)ボーデン・バレットがボール下に左手を差し込み、SH(スクラムハーフ)のTJ・ペレナラが身体を抱えていた。

 耐える時は耐え、攻める時はトライを仕留めきる。ボールを奪回するターンオーバーは、相手の7回に対し、NZは20回を数えた。インターセプトからWTB(ウイング)のベン・スミスがトライを奪った。115キャップのキーラン・リード主将は言葉に充実感を漂わせた。

「ちゃんとゲームをコントロールできたと思います。とくに最後のほうは」

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