早大ラグビー部を描いた小説の作者が、今の「パワハラ騒動」に思うこと (3ページ目)

  • 藤島 大●文 text by Fujishima Dai
  • photo by Kyodo News

 このところのスポーツ界の「私物化」は不自由の極致である。パワーを行使している人物たちも、正当な人物評価の外にあるという意味で、精神の安息は得られない。いつか滅びるために権勢をふるっているようなものだ。

 最後にこれだけは述べたい。

「私物化、パワーハラスメント、バイオレンス」と「猛練習」は違う。「ゆがんだ勝利至上主義」と「あくまでも高みをあきらめない本物の勝利至上主義」は別の次元に位置する。両者はまったく交わらない。勝利を心の底から欲すれば、ボスによる統治や暴力は、それがあっては目的に達しないので、まっさきに排除の対象となる。威張る人、殴る人は勝利至上の反対側に向かっているのだ。チャンピオンシップの真剣勝負とは理不尽の連続である。制するためには練習から「理外の理」を追求しなくてはならない。ときに理不尽なほどの激しさや厳しさをすれすれで担保するのが「強制を憎み、怠惰をいましめる」態度である。

 なるほど負けて得るものはある。だいいち、ほとんどのスポーツ選手は負ける。ただし負けたら無なのだと思いつめるから、負けても大切なものが残るのである。(了)


タイトル/『北風 小説 早稲田大学ラグビー部』

著者/藤島大
1961年東京都出身。早稲田大学でラグビー部に所属。
スポーツ紙記者を経てスポーツライターとして独立。
著述業のかたわら、早大ラグビー部のコーチも担当。

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