【ラグビー】トップリーグ王者に完敗も、帝京大が見せた気迫と成長 (2ページ目)

  • 松瀬学●文 text by Matsuse Manabu  齋藤龍太郎●写真 photo by Saito Ryutaro

「もう一度、前に出るぞ。スクラムを押しこむぞ」

 坂手主将はそう、檄を飛ばした。パナソニックのプッシュにスクラムのバランスを崩したが、左に回りながらも、マクカランがボールをひょいと左ライン際の竹山晃暉につなぎ、その1年生ウイングが鋭いダッシュで左隅ギリギリに飛び込んだ。まさに学生王者の意地だった。

 微妙なトライでビデオ判定に持ち込まれたが、坂手主将は「早く(自陣に)戻れ」とチームメイトに声をかけた。

 坂手主将の試合後の述懐。

「トライだと確信していたので、早くキックオフのセットをしようと思ったんです。次の準備をして、みんな、もう1本(トライを)取りにいこうとの気持ちを持っていました」

 結局、そのままノーサイド。15-49で試合は終わった。学生の何人かは泣いた。約1万3千人の観客からは、帝京大にもあたたかい拍手が送られた。岩出雅之監督は言った。

「学生はよくがんばったと思うし、まだまだ力が足りなかったとも思う。もし、このゲームを自分たちで納得していれば、さわやかな笑顔が出たんじゃないかと思います」

 学生王者には厳しい状況だった。もともと、日本代表5人を並べるパナソニックとは戦力も経験値も差がある。日程的にも、1週間前にTL決勝を戦ったチームに対し、帝京大は大学選手権決勝から3週間も空いていた。どうしても「試合勘」に差が出る。それが前半、後半の入りに出た。

 その環境にあって、学生王者は学生らしく挑んだ。特にブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)。「体のぶつけ合いでは負けていなかった」との坂手主将の言葉通り、コンタクトエリアでは押しこむ場面もあった。相手のジャッカルを警戒し、2人目の寄りが速かった。

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