ラグビー日本選手権決勝。ヤマハ、どん底から日本一への道程 (2ページ目)

  • 松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎 ●写真 photo by Saito Ryutaro

 勝利を印象付けたシーンが後半の中盤、右プロップに33歳の山村亮が、途中交代で入った後の自陣ゴール前のスクラムだった。ヤマハボール。8人の水色ジャージが低い塊(かたまり)となって黄色ジャージをめくり上げ、またもコラプシング(スクラムを故意に崩す行為)の反則をものにした。FWは雄たけびを上げ、ハイタッチで喜びを爆発させた。

 試合後、山村が述懐する。「グラウンドに入る時、シンさん(長谷川慎FWコーチ)に"やってこいよ"と言われたんです。僕の仕事って、あれしかないんで。責任果たして、"ああ、よかったな"って」

 ヤマハ、いや清宮監督はスクラムにとことんこだわる。就任直後にはスクラムの本場、フランスにスクラム強化のためだけにFWを遠征させたほどだ。実は今週、秩父宮ラグビー場の芝は荒れて滑りやすいと予想し、練習ではあえて砂地でスクラムを組んできた。

 長谷川コーチによれば、足元が滑るからといって高く組むと余計に落ちる、滑るからこそ、さらに低く固まって前に出ることが秘策だったというのである。

 さらにヤマハスタイルといえば、フィジカルを生かした猛タックルである。低く、強く踏み込んで、相手を倒す。時には2人目がほぼ同時に相手に襲いかかって、倒し切る。倒れたら、すぐ起きて、またファイトする。

 これも4年間の体作りとハードトレーニングの積み重ねの成果であろう。4年前からレスリング五輪メダリストの太田拓弥コーチが早朝練習で鍛え、今季からはボディービルダーのコーチの指導も受けてきた。合理的な肉体作りが促進され、筋肉の使い方を理解したことで、力をより効果的に発揮できるようになった。

 スタンドオフの大田尾竜彦は「今日は、前に出るディフェンスの勝利です」と言った。

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