【ラグビー】日本代表のホープ・藤田慶和擁する早稲田、打倒帝京のカギは?

  • 松瀬学●取材・文 text by Matsuse Manabu
  • 井田新輔●撮影 photo by Ida Shinsuke

 試合前のウォーミングアップ。藤田は日本代表のチームメイト、筑波大のWTB福岡堅樹からこう、声をかけられた。

「今日は楽しもう」
「ハイ。楽しみましょう」

 言葉どおり、序盤からどんどんボールに絡んでいった。確かにチャンスでのノックオンがあった。ミスもあった。でもチームメイトからの信頼は揺るがない。

「スケールの大きなプレーヤーなので」と、後藤禎和監督も評する。

「型にはめず、『ボールを持った時は自由に動いていいよ』と本人には言っていますから。あいつにボールを持たせて、みんなでサポートしようというのがチームの考えです」

 藤田は、アジア五カ国対抗戦のアラブ首長国連邦戦(2012年5月5日)で18歳7カ月の史上最年少記録で日本代表戦に出場した。昨季は左ひざの大ケガで棒に振ったが、今季は夏にニュージーランドに短期留学するなどして、ひと回りプレーが大きくなった。

 秋の日本代表の欧州遠征に参加し、2013年11月に早大に戻った。ほとんどチームで練習していなかったのに孤立しないのは、藤田の純粋な性格と真面目さゆえであろう。

 ランプレーは当然として、地味ながらブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)でも体を張るようになっている。フィジカルがアップした。姿勢が低くなった。藤田の成長部分を福岡に聞くと、苦笑しながら、こう漏らした。

「たしかに、ブレイクダウンの部分で、動きが激しかったり、しつこく最後まで絡んできたりするようになっています」

 もっとも、この日の準決勝で目立ったのは藤田だったが、勝因はスクラムとゴール前の鉄壁ディフェンス、FWの頑張りだった。

 右足首の故障から復帰したフッカー須藤拓輝がうまくリードし、4年生が並ぶフロントロー陣がスクラムで圧倒した。自陣ゴール前の相手の波状攻撃を猛タックルで防ぎ切った直後、敵ゴール前にイッキに押し戻し、敵ボールのスクラムのボールを奪取。そのまま値千金のトライをもぎとった。

 このFWの成長は、1年間の地道なスクラム練習と個人練習の積み重ねゆえである。後藤監督は少しおどけた調子で言った。

「もう奇跡ですね。この舞台(準決勝)で敵ボールのスクラムをあそこまで押し込めたのは(早大で)史上初でしょ」

 決勝は1月12日。大学日本一まであとひとつである。

 ただ、5連覇に邁進する帝京大は強くて大きくて速い。準決勝の慶応大戦では、前半こそ苦しみながらも、終わってみれば45-14と大勝した。

 地力では早大が見劣りする。どうやって王者を倒すのか。勝つためには、いかに相手にボールを持たせないか、だ。

 つまりは、FW戦、とくにスクラムで圧倒し、攻め続けること。筑波大戦のようにバックスがボールをポロポロ落とすようだと勝機はない。ミス、反則を極力、減らし、ボールを継続して攻め続けることができれば勝負の行方は分からなくなる。

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