全日本卓球での東京五輪組の敗退は「波乱」ではない。男子のアラサーたち、女子の黄金世代のひとりも進化

  • 佐藤主祥●取材・文 text by Sato Kazuyoshi
  • photo by Naoki Morita/AFLO SPORT

【"黄金世代"のひとり、加藤美優の躍進】

 女子シングルスでも、優勝候補が次々と姿を消し、「波乱」の2文字がネット上を飛び交った。

 昨年の全日本選手権で5年ぶりに頂点に返り咲いた石川佳純、2017年大会女王の平野美宇がそろって6回戦で敗退。石川は加藤美優に、平野も佐藤瞳に1ー4で屈し、ベスト16止まりとなった。

 だが、東京五輪組を倒した両選手も、国際大会で名だたる強敵を打ち負かしている世界ランカーだ。

 加藤はそもそも、1歳上の浜本由惟、1歳下の伊藤、平野、早田を含めて"黄金世代"と呼ばれたひとり。2012年の全日本選手権女子シングルスでは、12歳の小学6年生でベスト32(5回戦)まで勝ち上がり、福原愛が史上最年少記録として保持していた『小学生での勝利数「3」』を抜く4勝を挙げる。翌年も福原以来となる中学1年でのベスト16入りと、幼い頃からその才能を発揮していた。

 一躍脚光を浴びたのが、2019年の世界選手権ブダペスト大会。最終選考会で早田を下して代表内定を勝ち取り、本戦の女子シングルス4回戦では当時、世界ランク8位の鄭怡静(チャイニーズタイペイ/チェン・イーチン)を下してベスト8入りを果たす。さらには同年のT2ダイヤモンド・マレーシア大会で、当時、世界ランク1位の陳夢(中国/チェン・ムン)を破る金星を挙げてベスト4入りを達成。世界にその名を轟かせた。

 今回の全日本選手権では、準決勝で早田にフルゲームにもつれ込む大接戦の末に惜しくも敗れはしたが、自身最高のベスト4入り。その気持ちの入った渾身のプレーからは、今まで以上のメンタルの強さが垣間見えた。

 準決勝後に行なわれたインタビューで、加藤は「(負けるときは)全部、精神的な問題で負けているのかなと思っている」とこれまでの課題を説明した上で、「だいぶ前向きな気持ちになれているので、今日の負けにそんなに落ち込まないようにして、また練習を頑張りたい」と徐々に克服している現状を明かした。

 その言葉どおり、早田とのゲーム中は右肩を痛めたり、照明の関係で試合が中断したりするアクシデントや、早田の"力"に手が出ない場面もあったが、下を向かなかった。終盤には、今まで見たことがないような鋭い眼光で早田を捉え、気持ちを高ぶらせる姿も。日本女子卓球界屈指のパワードライブに対しても安定感のあるラリーで応戦し、最後の一球まで熱戦を繰り広げた。

 あと一歩届かず、試合後には「競った場面で気持ちの弱い部分が出てしまった」と話していたが、明らかな精神面での成長を感じさせた。彼女にどんな状況にも耐えられるタフさが加われば、早田も平野も、もちろん伊藤もうかうかしてはいられない。"黄金世代"の中には、加藤もいるのだ。

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