伊藤美誠が卓球シングルスで日本女子初のメダル。準決敗退後、どう気持ちを立て直したか

  • 松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu
  • photo by JMPA

 第1ゲームは落とした。敗戦ショックが尾を引いていたのか、足の動きが悪かった。伊藤の卓球は足を動かし、下半身で球を打つ。31歳のユ・モンユは世界ランク47位。20歳のエースが自分の力を出せば、負ける相手ではなかった。2ゲーム目。途中でサーブの打ち方を少し変えた。8-8から3ポイントを連取し、ゲームタイとした。

 これで流れが変わった。サーブも効くようになり、足もよく動いた。そのまま、3ゲームを連取し、4−1で押し切った。伊藤は、「金メダル以外はぜ~んぶ、私自身、一緒だと思っている」と打ち明けた。

「もちろん銅メダルはうれしいですけど、やっぱり中国選手に勝ってメダルをとりたいんです。準決勝も3位決定戦も、うまくいってない状態で、負けたのと勝ったのという感じなので。いつも、すべてを出し切りたいじゃないですか」

 2012年ロンドン五輪を見た時、伊藤は「オリンピックで金メダルをとる」と日記に書いたという。そして、2013年9月に東京での五輪開催が決まった時、「東京五輪で金メダル」が明確な目標となった。それから、8年の歳月が経った。多少の浮き沈みがありながらも、伊藤は順調に成長してきた。

 国際大会で次々と史上最年少優勝の記録を塗り替え、15歳で出場した2016年リオ五輪では女子団体で銅メダルを獲得した。その後、同学年の平野美宇の急成長に刺激を受け、2017年秋、中国のリーグに約2週間、挑戦した。目標としてきた東京五輪は新型コロナで1年、延期となった。

 松崎コーチは「美誠は試合が好きで卓球をやっているんです」と教えてくれた。「1年延期のオリンピック。ものすごくがんばっているんですけど、相手が見えないというか、試合に勝つための練習から遠くなってしまった。本人のなかでは面白くなかったでしょう」

 つまりは、モチベーションの維持が大変だったということである。伊藤は通常、週に6日、一日5、6時間、練習する。新型コロナの前の練習オフの日は、大好きなショッピングで気分転換するのが常だった。だが、新型コロナの自粛期間となってからは、松崎コーチと練習場近くの山に車で行くようになった。同コーチは「家に引き込もらないように」と説明した。

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