水谷隼が「球は見えるか」の不安を乗り越え、復活の兆しを見せている (3ページ目)

  • 佐藤主祥●取材・文 text by Sato Kazuyoshi
  • photo by AFLO

 それは成績だけではなく、精神的支柱としての役割においてもそうだ。五輪という舞台で、何度も戦っている水谷が「別次元で戦っているような感覚で、平常心で臨めない」と話すほど、他の大会と雰囲気は異なる。実際に水谷は、2008年北京五輪、ロンドン五輪ともに(当時)対戦成績では上回る相手に敗北している。

 それゆえ、今や絶対的エースである張本智和でさえも、初めての五輪の空気感にのまれ、自分のプレーを見失う可能性は大いにあるだろう。だからこそ、"あの場所"を熟知し、チームを一つにまとめ上げることができる水谷の存在の大きさは、計り知れないものになりそうだ。

 そして2020年に入り、個人としても調子を上げつつある。1月28日~2月2日に開催されたITTFワールドツアー・ドイツオープンでは、男子シングルス2回戦でチャイニーズタイペイのエース・林昀儒 (リン・ユンジュ/世界ランク6位)にゲームカウント4-3で勝利。0-3と追い込まれた状態から4ゲーム連取の大逆転劇は、まさに粘り強さが最大の武器である水谷の真骨頂だ。

 中国の林高遠(リン・ガオユエン/同4位)との準々決勝は、惜しくもフルゲームの末に敗れたが、この試合も0-3から驚異の粘りで、2019年香港オープン覇者を土俵際まで追い詰めた。後陣からのラリーを制して得点するなど各所で水谷らしいプレーが見られ、東京五輪に向け復活の兆しを見せた大会であった。

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