中国キラー・伊藤美誠をつくった「バケモノのような選手」にする訓練 (2ページ目)

  • 城島充●文 text by Jojima Mitsuru
  • photo by Reuters/AFLO

「このプレーに、伊藤選手の特別な才能があらわれている」と指摘するのは、伊藤の練習パートナーを務めている関西大学卓球部の坂根翔太である。リオデジャネイロ五輪後にパートナーに抜擢されたサウスポーの関西学生チャンピオン(2016年度)は、伊藤の卓球に最も近くで接しているひとりだ。

「伊藤選手の卓球は他の誰とも違う個性にあふれていますが、そのなかでも僕が凄いと思うのは、守備で点を取れることです。あのプレーを振り返ると、まずネットインしたボールを返されたことに劉詩ブン選手は驚いたはずです。だから、コースを狙う余裕がなく、返ってきたボールはチャンスボールになり、それを思い切り叩いた。

 崩れた体勢からレシーブの形を整えた伊藤選手は、劉詩ブン選手が打ち込むスマッシュのコースを読みきっていたと思います。卓越した反応と予測能力、そして彼女にしかできない形でカウンターを打ち込む攻撃センスがあるから、守りから点を取れるんです」

 国際卓球連盟(ITTF)も、日本版ツイッターでこのカウンターを「ミラクルショット」として動画で紹介しているが、伊藤が世界選手権決勝のコートで王者の膝をグラつかせたシーンはそれだけではない。

 台上での攻防で、チキータの上回転と下回転を繊細なボールタッチで使い分けたかと思うと、逆回転をかける「逆チキータ」も披露し、劉詩ブンを混乱させた。第2ゲームに7-10とゲームポイントを握られた場面で、耳の近くに返ってきたボールを、軽く横回転をかけるようにフォアカットしたプレーは、中国ベンチをも驚かせたのではないか。一瞬のひらめきで誰もが驚くようなラケットの面使いを世界選手権決勝のコートでできるのは、おそらく彼女しかいないだろう。

「打倒中国に日本を含めたいろんな国が挑んできましたが、中国選手と同じようにドライブの回転量を多くして対抗しようとする選手が多かったと思います。でも、伊藤選手はまったく違うアプローチをしている」と、坂根は言う。

「まったく違う土台の上に、彼女しか思いつかないようなアイデアを積み上げて中国を倒そうとしている。それも彼女の強みだと思います。自分たちとは違うスタイルで向かってこられたほうが、相手も嫌なはずですから」

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