張本智和が「チョレイ」と拓く未来。日本は世界の卓球勢力図を変えるか (3ページ目)

  • 城島充●文 text by Jojima Mitsuru
  • 中村博之●写真 photo by Nakamura Hiroyuki

 その半年後の世界選手権デュッセルドルフ大会で水谷を破ったときも、ヒーローのプレーを冷静に分析することを忘れなかった。

「負けても失うものがない僕とは逆に、水谷さんには絶対に負けられないプレッシャーがあったはず。あんなにレシーブがうまい人なのに、少しボールが浮いていました」

 そして1月21日、東京五輪の卓球会場でもある東京体育館のセンターコートで水谷を圧倒した14歳は、「相手が水谷さんだから、120%の力が出た」と憧れの人に敬意を示したうえで、こう言い切った。

「世界選手権のときは勢いで勝ったけど、今回は実力で勝ったという気持ちがある。これからは自分の時代。水谷さんみたいに10回くらい優勝できる選手になりたい」

 一方で、「今日の張本が特別でなかったなら、何度やっても僕は勝てない。中国選手と同じくらいのレベル」と勝者に最大級の賛辞を送った水谷だが、張本のような才能の台頭は、彼が長らく待ち望んでいたことだった。

 水谷が初めて団体戦の代表として出場した2006年の世界選手権ブレーメン大会で、男子の日本代表は過去最低の14位に沈んだ。以来、孤高の存在として男子卓球界を支えてきた水谷は、「僕を超える才能が出てこないと、"打倒中国"は果たせない」と言い続けてきた。「卓球をメジャー競技にするためにも、そんな才能が必要なんです」と。

 そんな水谷にとって、14歳も年下の才能による「新たな時代の卓球」は、これまで国内のコートでは味わったことのない刺激を与えてくれたはずである。

 実際に決勝では、第5ゲームを9-4とリードしたあと、張本の上から叩きつけるようなスイングで、しかも瞬時にボールに回転をかけながら打ち込んだ一撃は、水谷がこれまでに見せたことのなかったプレーである。この1本に、王者の矜持(きょうじ)と、さらなる進化につながる一筋の光を見いだしたファンもいるだろう。

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