【卓球】世界が驚いたシンガポール戦の圧勝劇。
日本が仕掛けた「ふたつの戦略」

  • 小川勝●文 text by Ogawa Masaru
  • photo by JMPA

 今年2月のアジア選手権でも対戦したが、やはり2勝3敗で敗れている。この時のシンガポールはワンが出場せず、ワンより世界ランキングが下のユー・モンユーがメンバーに入っていた。福原がユーに勝ち、平野がリに勝って2勝を挙げたものの、石川も福原もフォンに敗れ、第5試合は石川がユーに敗れての2勝3敗だった。

 7月時点の国別世界ランキングで、日本が2位、シンガポールが3位になったのは、福原と石川が、シンガポールの選手たちより多くのワールドツアー(国際卓球連盟主催)に出場して、ポイントを稼いだ結果だ。もちろん試合に出ても格下選手に負けてばかりいればランキングを下げてしまうが、一定の結果を出したことで、国別世界ランキングでは日本がシンガポールを上回った。だが実際の対戦成績から見れば、シンガポールが日本より上にいることは間違いなかった。

 実際、女子日本代表の村上恭和監督も、ロンドン五輪の組み合わせが決まる前には、準決勝で当たるとしたら「どちらかというと、韓国と当たりたい」と語っていた。韓国とは、今年3月の世界選手権では2勝3敗で負けていたが、10年の世界選手権では福原、石川、平野が1勝ずつ挙げて3勝2敗で勝っている。実力的に完全に互角と言ってよかった。

 しかし抽選の結果、準決勝でシンガポールと当たる組み合わせになった。

 シンガポールに勝てるとすれば、エースのフォンに2敗しても、それ以外のシングルスで2勝して、ダブルスでも勝つ。そのような形になるだろうと予想された。エースのフォンには、福原でも通算1勝9敗。3年前の09年、アジアカップで勝ったことがあるだけだった。3勝するには、あとのふたり、ワンとリの絡む試合で確実に勝つ必要があると思われた。

 ロンドン五輪でも、フォンはシングルスの3位決定戦で石川に4-0で勝って銅メダル。実力を見せつけていた。

 だが、準決勝の結果は、3勝0敗で日本の勝利だった。福原3-1フォン、石川3-0ワン、石川・平野3-0ワン・リ。福原がフォンに1ゲームを許しただけという、文字通りの圧勝だった。フォン、ワン、リという中国帰化選手3人組のシンガポールに、オリンピックの準決勝という舞台で、初めて勝利したのである。

 卓球を普段から見ている熱心なファンほど、この勝利に――特に圧倒的なその内容に、驚いたに違いない。

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