NBAの新潮流「インサイドだけのビッグマンは生き残れない」。名将も「ミスマッチを狙う戦術が増えてきた」と証言

  • 宮地陽子●取材・文 text by Miyaji Yoko
  • photo by AFLO

センター抜きのチームも増加

 もちろん、突出した才能があるビッグマンは今でも貴重な存在で、だからこそヨキッチとエンビードがMVP争いをしたのだが、サイズがあり、インサイドのプレーだけできるというだけで重宝される時代ではなくなった。

 210cmを超えるようなビッグマンでも、時に3ポイントショットを決めたり、必要な時には敏捷なガード選手を守ることができるぐらいの機敏さやフットワークがないと、生き残ることができない。レギュラーシーズン中はチームに必要な選手でも、プレーオフになって重要な場面で試合に出られなくなるケースも多い。

 たとえば、フェニックス・サンズのスターティング・センターのディアンドレ・エイトンは、ダラス・マーベリックスとの西カンファレンス準決勝で、出場時間が23分を切る試合が7試合中3試合あった。ユタ・ジャズからミネソタ・ティンバーウルブズに移った名ディフェンダーのルディ・ゴベアですら、プレーオフになると相手の戦術に対応できず、ベンチに下げられる場面が見られるようになった。

 一方で、本格的なセンター抜きで戦う強豪チームも多い。昨季のNBAチャンピオンになったゴールデンステート・ウォリアーズはガードのステフィン・カリーが率いるチームで、NBAファイナルで実質センターの役割を務めていたのは、身長198cmのフォワード、ドレイモンド・グリーンと206cmのケボン・ルーニーだった。

 センターに対する評価が変わってきた理由として、一番に挙げられるのが3ポイントショットの威力だ。カリーのようにどこからでも、そして一瞬の隙をついて3ポイントを決められる選手が増えてきたことで、サイズに対する革命が起きた。

 昨年の東京オリンピックで、日本女子代表が銀メダルを獲ったのを覚えている人も多いのではないだろうか。世界の中でサイズに劣る日本女子代表が銀メダルを取ることができたのも、3ポイントを武器として極めたからだ。

 当時日本女子代表のヘッドコーチだったトム・ホーバス(現日本男子代表HC)は、NBAの戦い方を研究し、ウォリアーズやヒューストン・ロケッツの戦術を取り入れた。平均身長が低くても3ポイントを打てる選手を揃えたことで、サイズがある国を相手にしても勝つことができた。唯一、歯が立たなかったのは、突出した能力を持つセンター、ブリトニー・グライナーがいるアメリカ代表だけだった。

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