東京五輪メンバー落選、強豪から最下位チームへの移籍。バスケ辻直人が厳しい環境を選んだ理由 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 日刊スポーツ/アフロ

 一方で、昨年、最下位だったチームの空気感は、常勝チームにいた辻からすると違和感を覚えたこともあった。決定的に足りないのは「勝者のメンタリティー」だった。

「それを浸透させていくのは難しい。練習の雰囲気も川崎と違って、ちょっと緩いので、もっと緊張感を持ってやらないといけないと思います。こういうことをすれば勝てるということがわかれば練習の雰囲気がもっとよくなるでしょうし、勝つことで自信が持てる。それがパフォーマンスに直結する。そういうサイクルが川崎はできていたんですが、広島でもできると思うんです。そういう意味では開幕の2連勝が大きかったですね。1勝1敗だとチームが足踏みしてしまうんですけど、2連勝したことで自信を持てた。チームの成長速度が早くなるんじゃないかなって思います」

 辻は、広島に個人のレベルアップを求めて移籍してきた。具体的には、どういうスキルを上げていきたいと考えているのだろうか。

「僕は3ポイントシュートを武器にしているんですけど、それだけじゃなくてシュートの幅を広げることに取り組んでいます。近いところの2ポイント、ちょっと離れたところでの3ポイントとか。特に3ポイントはサイズが小さく(身長185cm)、普通に打つのは世界レベルでは難しいので、チョットしたズレを作ってシュートを打てるスキルを身につけたい。そこで決められるとディフェンスの対応が変わってくるので、今度はその逆をついて打つとか幅をさらに広げたいです」

 中学生の時、朝7時に体育館を開けてもらって練習をし、自分の武器にした3ポイントだが、川崎時代は1試合3、4本ほどで、3ポイント以外のシュートを足したトータルでも、1試合でシュートを10本以上打つことはほとんどなかった。広島では、フィールドゴールと3ポイントの試投数は、負けた試合以外はほぼ10本を越えている。

「シュートを確率よく決めていけば、アシストも増えると思うんです。そうして、コート上を支配できる選手になりたいと思っています」

 辻がスキルを上げていけば、戦術的な上積みができるが、個だけで打開できるものではない。強いチームは多様な戦術を持ち、状況に応じて対応できる力があるが、広島にはまだ足りないと辻は認識している。

「広島はインサイドに強力な選手がいる。そのストロングポイントを活かしつつ、アウトサイドのシュートや早い展開での攻撃に持っていけるかどうかが今後、強くなっていくためのポイントですね。それがチームのストロングポイントになれば、また戦術の幅が広がって相手が守りにいくいチームになる。あとは、補強でしょう。外国人選手を連れてくる手もありますが、有望な若手や代表クラスの選手が来てくれるようなクラブにすることが重要です。それがクラブスローガンの日本一を目指すためには大事なことですし、今のクラブの課題でもあります」

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