「こんな終わり方はダメだ」。
折茂武彦は引退撤回を最後まで悩んだ

  • 水野光博●文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by Kyodo News

 そして、折茂が少しずつ席をずらしベンチ中央にたどり着く直前、無情にもラストシーズンにピリオドが打たれる。

 予期せぬシーズン終了に、多くのブースターだけでなく、多くの近しい人物が「もう1年やったほうがいい」「こんな終わり方はダメだ」「体力的な問題じゃないんだろ? まだできるよ」と引退撤回の説得を試みた。

「正直、(5月3日の)引退会見のギリギリ、最後の最後まで悩みました。もう一度、降ろした荷物を背負ってみようとも試みたんです。ただ、これまで背負ってきた荷物は重い。ずっと足を震わせながら限界を超えて背負っているような状態でした。どんな役割も厭わないのであれば、あと数年できたと思う。ただ、僕はずっと数字を残すこと、応援してくれる人の期待に応えることにこだわってきた。"そのふたつをこだわり続ける覚悟はあるのか?"と自分に問うた時、"ある"と即答はできなかった」

 折茂は折茂武彦であり続けるために、ユニフォームを脱ぐ決断を覆さなかった。

(つづく)

6 / 6

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る