八村塁がNBAで示している適応力。
最適な環境で能力はまだまだ伸びる

  • 小永吉陽子●取材・文・写真 text&photo by Konagayoshi Yoko

 チームにケガ人が多いことから、センターを務めた試合もあれば、昨季ファイナルMVPのカワイ・レナードがいるLAクリッパーズとの対戦(12月2日)では、38分出場して自己最多となる30得点、9リバウンドをマークしたばかりか、ターンオーバー(ミス)はゼロ。

 30得点のうち3ポイントを2本決めていることから、課題とされていた3ポイントも迷いなく打てるようになってきている。また、大学の途中から確率が悪くなっていたフリースローもフォームを改造することで上向いてきている。12月9日のLAクリッパーズ戦ではフリースローを7本得て、すべて成功。ゴンザガ時代は73.9%だったフリースローは現在85.2%まで上がってきている。

 もちろん、ブロックショットを受けるような洗礼を浴びる日もあれば、得点が伸びない低調な日もある。また、ウィザーズではゴンザガ時代のように八村にボールが集まらず、ファーストオプションにならない展開も多い。それでも、悪い内容のあとは必ず改善の兆しが見られ、無理なシュートに持ち込まないようなスペーシングの取り方にも気を配っているのがわかる。こうした高い適応力に対し、ウィザーズのヘッドコーチであるスコット・ブルックスは「塁は何年もやっているベテランのようだ」と話すほどだ。

 試合ごとに適応している姿を見ればわかるが、八村は身体能力がありながらも、能力で押しきってプレーするタイプではない。毎日の練習や試合で苦しかったこと、楽しかったこと、さらに言えば、「日本にいる肌の色が黒いハーフの子供たちのロールモデルになれるように」というみずからが大切にしているアイデンティティーまで、自身がこれまで積み上げきた経験や生き方をコートに出しながら成長しているのが八村塁という選手なのだ。これからはさらにマークが厳しくなっていくだろうが、NBAの荒波に揉まれながらも、本人が言う「コツコツ」と挑み続けるだけだ。

 そして、NBAでの成長とともに楽しみなのが、日本代表のエースとして、今夏の東京五輪でプレーすることだ。

 八村自身は高校時代から「オリンピックでアメリカと対戦したい」と口にしていたが、その日が目前に迫っている。東京五輪に向けて八村は、「僕がバスケを始めたくらいから東京でオリンピックがあると決まって、それからずっと出たいと思っていたので、すごく楽しみにしています。ワールドカップでアメリカのような世界一強い国と対戦できたのは、これからオリンピックがあるうえで、負けはしたけれどよかったと思う」と語る一方で、「オリンピックは世界でも強い12チームしか出場できない大会。まず僕らの目標は1勝すること」と現実を見つめて気を引き締める。

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