涙とともに成長した渡邊雄太。W杯の教訓は「プレッシャーに勝つこと」 (3ページ目)

  • 小永吉陽子●取材・文 text by Konagayoshi Yoko
  • 加藤誠夫●写真 photo by Kato Yoshio

 そんな将来性ある選手を鍛えたいと、U18代表のヘッドコーチだった佐藤久夫コーチ(明成高)は、渡邊にポイントガード(PG)ポジションを練習させた。「2m選手がPGを務めることで戦いのテンポを変える狙いがあるのと、雄太にはビッグゲームで誰よりもゲームを理解して、リーダーになる度胸をつけてほしい」という意図で、3位決定戦のイラン戦では渡邊を長い時間にわたってPGとして起用。渡邊自身も「U18代表でも尽誠でも、大きな試合でガードをやった経験は確実につながっています」と語る今、ボールをプッシュし、ボールハンドラーになる場面もあるほどだ。

 U18代表でのイラン戦では4点差で敗れて4位に終わったが、この時の号泣は今までとは違い、大粒の涙を流しながらも「早くA代表で活躍できる選手になりたい」と前向きなものだった。大泣きしながら「A代表」との言葉を口にする高校生を見たのははじめてだった。

 海を渡った先のジョージワシントン大では、4年時にアトランティック10カンファレンスの最優秀ディフェンス賞を獲得しているが、そこにたどりついたのも、自信が持てるプレーを得るまで、やはり涙を流すほどの悔しさを味わいながらも試練と向き合ったからこそ。

 今回もそうだった。日本代表の合宿に合流した直後に捻挫をして、完全復帰を果たしたのは8月24日の強化試合のドイツ戦であり、W杯直前まで完全な状態でプレーができない不安があった。大会に間に合わせる調整をした裏には、人知れずに休みの日にもコンディション作りや練習をする姿があった。いつも最初からうまくやり通せたわけではない。簡単にNBA選手になったわけでもない。むしろ苦い経験を多く味わい、その迷いを断ち切るまで目の前の課題に取り組み、そして吹っ切ったときは今まで以上のプレーを必ず見せる。これを繰り返して這い上がってきたのが渡邊雄太なのだ。

 現状はグリズリーズとの2Way契約の状態にあり、本契約を勝ち取ったわけではない。W杯のような舞台で結果を出すことは、ビッグゲームでの勝負強さを示し、当然、グリズリーズでの評価を上げることになる。34得点を奪取した先には、NBAでの生き残りをかけた戦いもあったのだ。

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