2018.07.01

アフリカ→日本→NBAと歩んだ男が、
「レフェリー殴打事件」に思うこと

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by Getty Images

――あのゲーム中だけに限らず、「異国で味わうさまざまなストレスが影響したんじゃないか」という意見は実際に出ています。経験者だからこそわかる、日本で留学生が直面する難しさもあると思いますが。

「まず、留学生が15、16歳の少年たちだということを忘れないでほしい。母国を離れ、まったく違う文化の国に飛び込んだ子どもなんだ。アフリカで生まれた子どもが、言葉も文化も異なるアジア、日本で生活することが簡単ではないのは当然だよ。

 上手に適応できる子がいれば、そうではない子もいる。家族のような雰囲気の中で過ごせば落ち着ける子もいるし、それ以外の何かが必要になる子もいる。たとえば、日本の高校生がアフリカで暮らすとして、現地での生活に適応するのがどれだけ難しいかを想像してみてほしい」

――ンドゥール選手はこれまで多くの国で生活した経験がありますが、日本特有の難しさを挙げるとすれば?

「日本では、より多くのものを要求されることは事実だと思う。みんなが何でも一生懸命やるし、練習でも常に誰もがハードに動く。学校には時間に遅れずに登校して、年上の人には敬意を払う。規律のしっかりした生活は日本では当たり前だとしても、多くのアフリカの子どもたちにとっては慣れないことだ。

 アフリカでは、子どもも大人も老人もみんながジョークを飛ばし合う、より大らかな文化。日本とは雰囲気が違う。そんなに物事を深刻に考えることはないし、『子どもは子どもらしくあればいい』といった空気がある。日本はそうではなく、留学生に対しても多くを要求する。その一方で、留学生のためのサポートシステムがしっかりしているとは言えないと思う」

――今回の延岡学園の事件でも、学生に対するサポートが不十分だったんじゃないかと指摘する声があります。ンドゥール選手は高校時代を岡山で過ごし、岡山学芸館高校に通ったわけですが、学校、地域のサポートが万全だとは感じられなかったんですか? 

「僕が快適に過ごせるように、地元が”ホーム”だと感じられるように、みんながベストを尽くしてくれた。先生はいつも僕に声をかけ、『できることがあったらいつでも言ってくれ』と伝えてくれた。バスケ部のコーチも気にかけてくれていたね。寮で暮らしたんだけど、寮長もよく世話をしてくれた。

 ただ、やはり”家族の雰囲気”ではなかったと思う。ファミリーというより、先生と生徒、コーチと選手の関係だった。アメリカでは、たいていの留学生はホストファミリーの家でホームステイする形で生活する。それに対して日本では、ドミトリーでいきなり他の生徒たちと一緒に過ごすから、部屋でひとりでいることがどうしても多くなるんだ」