【NBA】連覇を目標としないスパーズHCポポビッチの真意

  • 宮地陽子●文 text by Miyaji Yoko photo by Getty Images

 それもあるかもしれない。ただ、それと同時にポポビッチは、連覇という言葉の響きからくる、「前のシーズンからの継続」というイメージを崩したいのではないだろうか。「前のシーズンにできたことは、今シーズンも最初からできて当たり前」と周囲は思いがちだが、そうでないことをポポビッチは長年の経験で知っている。

「昨シーズンの終わりに私たちは、オフェンスでも、ディフェンスでも、なかなかいいバスケットボールチームになることができた。それと同じことをまたできるのなら、それが優勝するために十分かどうかにかかわらず、私は喜んで受け入れる。ただ、あれより向上することはできないと思っているからね。我々は同じチームで、選手たちもさらに年齢を重ねている。去年やったことより、向上することはできない。

 だからこそ、私たちの目標は、階段を飛ばすことなく最初から積み上げ、去年と同じレベルに到達することだ。今年はそういうアプローチでやっている」

 頂点を経験したチームであっても、また最初から積み上げ直す意識でないといけないというわけだ。ポポビッチらしい考え方だ。

 となると、今シーズンの一番の懸念材料は、優勝したことからくる気の緩みだろうか? しかし、意外なことに、ポポビッチはそれを否定した。

「(選手の気の緩みを)私は心配していない。だって、それが当たり前のことだと知っているからね。中には今日、まだ優勝の余韻を楽しんでいる選手がいるかもしれない。ただ、私たちは人間なのだから、それは不思議のないことだ。そのことに抗(あがら)うのは時間の無駄。前に進んでいくうちに、自然に収まってくるものだと思っている」

 ムチを打ち、厳しい水準を求めるかと思えば、気の緩みを自然なことだと受け入れる。ポポビッチ流のチーム操縦論は、思っていた以上に奥が深い――。

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