突破できるか?今そこにある、バスケットボール新リーグ「NBL」の課題 (4ページ目)

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko 山本雷太●撮影 photo by Yamamoto Raita

――ご自身が栃木で結果を出してきたということで今の立場、新リーグのCOOで、それを説得力に変えたいということですね。

山谷「栃木というのは、本当に難しい土地でした。いわゆる商圏としては栃木県自体は200万人で、県庁所在地の宇都宮市が60万人です。ただ、栃木の場合、人口の数ということよりも、特にマスメディアの環境が日本で唯一と言っていいぐらい特殊なんです。要するに、メディアはすべて首都圏のメディアなんです。テレビの電波もスポーツ新聞も全部東京と同じです。NHKの県域放送ができたのは、去年の4月ですから。

 当然、メディア戦略は空中戦が効かないと思ったので、地上戦しかない。とにかく地域に出る回数にこだわりました。質よりも回数。お祭りや学校などへの訪問は、たぶんこの6年間で1500回ぐらい。『こういう選手がいるんだ』『こういうチームがあるんだ』ということを知らしめるためには地上戦は重要です。

 変な言い方ですけど、今のバスケットボールの認知度なり市場なりを見ても、栃木であろうがどこの土地であろうが、私は集客をする余地が一定の数まではあると思っています。3億から5億円規模の球団経営は、チームの努力次第でできるんです。親会社からの支援がなければ無理ともいわれますが、リンク栃木では優勝したシーズンは親会社からのサポートはゼロ、それ以外のシーズンでも多くても2000万円程度です」

――200万人の人口で、栃木にはサッカーの栃木SCもありますし、アイスホッケーの日光アイスバックスもある。他競技との棲み分けは、どう考えられたのですか?

山谷「そこも、よく県内で試合の日程がかぶると、お客さんを取り合うんじゃないかと言われるんですが、私はそんなことを議論する段階ではないと思っていました。

 去年の3月に、ブレックスはプレイオフ進出をかけた重要な試合、栃木SCはホーム開幕戦、アイスバックスはプレイオフという試合がすべて栃木県内で同日同時刻に重なった日があったんです。それぞれの観客を足していくと、ブレックスが大体2500、栃木SCさんが4000、アイスバックスさんが1500ですから、全部で8000人ぐらいです。3チームの観客数を足したところでJ1の1チームの集客に満たないわけです。その数が潜在市場を示すならば、栃木県の市場規模はマックス8000人ということになります。

 たとえ日程が重なったとしても、それぞれのチームのファンはみんな何かしらの試合観戦に行っているわけです。ということは、そんな小さいパイの中で取り合いをしている場合ではないんです。8000という数自体をまず増やすこと、すなわちそれぞれのチームが新規ユーザーをもっと獲得し潜在市場を開拓してゆくことが大命題となる。プロスポーツビジネスはまだまだ黎明期のベンチャービジネスなんです」

―― 一方で集客の限界も感じられていた。

山谷「さきほどある一定のところまではできます、という言い方をしましたけれど、それ以上は、私は伸びないと思ったんです。リンク栃木の売上高で言うと、優勝した年で5.9億円。観客動員も、一番入った試合で5000人ぐらい。バスケットボールの今の人気状態や、JBLの今の認知度で、自力でやれるのはこれぐらいまでかなと思ったんです」

――ここが限界値だと。

山谷「そうです。となると、あとはやはりプラットフォームであるリーグの問題なんです。Jリーグのチームを見ていると、失礼な言い方ですけれども、ブレックスやほかのプロバスケチームほど活動していなくてもメディアで取り上げられて、注目を浴びることが現実にあるわけです。それはなぜかというと、Jリーグというプラットフォームのブランド力であったり、その商品力であったりすると思うんです」

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