トヨタの若手育成は「まだまだ足りないところが多い」 中嶋一貴が語る日本人F1レギュラードライバー誕生に必要なこと (3ページ目)
【トップドライバーが持っているもの】
熱田 トヨタは1995年にフォーミュラ・トヨタ・レーシングスクール(FTRS)を設立し、ドライバー育成の取り組みを始めています。そして2020年、FTRSの仕組みを受け継ぎ、TGR-DCがスタートしていますが、まだ課題が多いということですね。
中嶋 そうですね。TGR-DCとして本格的な育成プログラムがスタートして、それほど時間が経っていませんので、まだまだ足りないところが多いです。周りを見わたすと、メルセデスの育成はすごくよくできていますが、彼らには長い経験があり、人材やノウハウも積み上がっています。そこに比べるとTGR-DCは体制面も含めてまだまだこれからですが、意識としてはメルセデスのようになっていかなければならないなと思っています。
熱田 中嶋さんは日本の入門用のフォーミュラレースを経験したあと、ヨーロッパに渡ってF3と、F2の前身であるGP2に参戦。その後、F1にステップアップしてウイリアムズに乗って、のちにチャンピオンとなるニコ・ロズベルグ選手と2008〜2009年にチームメイトになりました。日本からヨーロッパに来ると、とんでもなく速いドライバーがいるわけですよね。たとえば、メルセデスの育成プログラム出身のキミ・アントネッリ選手もそういうドライバーのひとりだと思いますが。
中嶋 僕の経験で言わせてもらうと、想像もしないようなレベルの違いを感じたことはないです。まあマックス・フェルスタッペンはちょっと次元が違うかもしれませんが、ニコやルイス・ハミルトンも含めて、別に次元が違うというほどの差はないと、僕自身は思っていました。彼らの背中は見えてはいました。
逆に言うと、もっと才能のある日本人ドライバーが若いうちからいろんな経験も積むことができれば、勝負はできると思います。角田裕毅選手だってそういうポテンシャルは十分にあります。平均的なレベルのF1のトップドライバーに比べても、そんなに違いはない。一発の速さに関してはそれほど変わりません。ただ高いレベルでコンスタントに走るという点が、トップドライバーとの最後の違いになると思います。
<プロフィール>
中嶋一貴 なかじま・かずき/1985年、愛知県生まれ。トヨタ・レーシング副会長。2003年、フォーミュラトヨタでチャンピオンを獲得。その後、トヨタの育成ドライバーとしてステップアップを重ね、2008年からF1に2シーズン参戦。2011年からフォーミュラ・ニッポン(現・スーパーフォーミュラ)に参戦し、2012年と2014年にチャンピオンとなる。2011〜2019年にはスーパーGTのGT500クラスに参戦。2015年から世界耐久選手権(WEC)にもレギュラー参戦し、2018−2019シーズンには2勝して日本人初のチャンピオンとなり、ル・マン24時間では2018年から3連覇。2021年限りで現役引退。
著者プロフィール
熱田護 (あつた・まもる)
フォトグラファー。1963年、三重県鈴鹿市生まれ。2輪の世界GPを転戦したのち、1991年よりフリーカメラマンとしてF1の撮影を開始。取材500戦を超える日本を代表するF1カメラマンのひとり。
川原田剛 (かわらだ・つよし)
1991年からF1専門誌で編集者として働き始め、その後フリーランスのライターとして独立。一般誌やスポーツ専門誌にモータースポーツの記事を執筆。現在は『週刊プレイボーイ』で連載「堂本光一 コンマ1秒の恍惚」を担当。スポーツ総合雑誌『webスポルティーバ』をはじめ、さまざまな媒体でスポーツやエンターテイメントの世界で活躍する人物のインタビュー記事を手がけている。
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