アイルトン・セナの素顔。そのあまりに人間的な一面を物語るエピソードの数々

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

勝つことだけに集中していた

「勝利は何よりもすばらしい。この気分を味わうならばどんなあくどい手を使ってもいいと思うし、トップにあれば何が何でもそれを守りたいと思うだろう」

「アイルトンは勝つことだけに集中していた。彼にとっては自分と自分のマシン以外は存在していなかった」

 上記は、セナと良好な関係にあった数少ないドライバー、ゲルハルト・ベルガーの言葉だ。

 ここまでセナのネガティブな面もとりあげてきたが、もちろん、彼はそれだけの存在ではない。公に発表することなく、恵まれない人々に多額の寄付を続けていたのも、また彼の一面だ。彼の死後、その意志を受け継いだのがアイルトン・セナ財団だ。

 若手ドライバーに親切にアドバイスすることもあった。私自身、こんなシーンを見たことがある。

 ある時、ピットの隅で苦しそうにしている日本人がいた。おそらくタイヤメーカーの人で、彼はセナと直接話す必要があった。だが気まぐれで、気に入らなければ話もしないというセナの噂を知っていたであろう彼は、緊張のあまり過呼吸になっていたように見えた。しかし、やってきたセナは彼の肩に優しく手を置き、呼吸が戻るまでずっとそばに寄り添ってくれていた。その日本人はきっとセナの虜になったことだろう。

 人間は誰しも欠点を持っている。スーパーチャンピオンのセナもまた、ひとりの人間だった。悪人ではないが、聖人でもない。ただ、レーサーとしては唯一無二の存在だった。

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