角田裕毅がベテランのような攻守の切り替え。エンジニアの予想を上回る速さで今季ベストレース (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • photo by BOOZY

相手を一発で仕留める角田

「アンダーステアが強かったですね。タイヤのせいでもあるんですけど、タイヤを悪くするのもクルマなので......」

 ウエットコンディションで、序盤はなかなか前を追いかけることができなかった。だが、路面が徐々に乾いてドライコンディションになってくると、角田は徐々にストロールを引き離し、むしろ前のケビン・マグヌッセン(ハース)を追いかける展開になった。

 そしてマグヌッセン、さらにはセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)も仕留めて、6位まで浮上してみせた。

「クルマはよかったと思います。もちろんそのオーバーテイクに向けてミスのないように、できるだけ限界で走っていました。そのなかでどのオーバーテイクも一発で決めることができたので、そこはよかったなと思います。(スタートポジションとしては)ポイント圏内にいたわけではなかったので、失うものはないし、毎周プッシュしていました」

 追いかけるなかで一瞬、「ノーパワー!」とトラブルを訴えて、関係者をヒヤリとさせた。だが、これはERS(エネルギー回生システム)のディプロイメント切れによるもの。

 路面が乾いていき、クルマが軽くなっていき、どんどんスロットルが踏めるようになってペースが上がったことで起きた現象で、つまりは角田がエンジニアの想定を上回る速さで走った証だった。

 チャンスが来るその瞬間までバッテリーをチャージし、狙い済ましたところでオーバーテイクボタンを押しっぱなしにしてフルにバッテリーを使い、メインストレートでDRS(※)も使って抜き去る。それを一発で仕留めた。これは、タイヤを労わるうえでも非常に重要なことだ。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 まるでベテランのような攻守の切り替えと、巧みなレース運び。そこにアップデートでパフォーマンスを向上させたAT03が一体となった。

 決して派手なレースではなかったが、だからこそ、角田のレーシングドライバーとしての成長ぶりがはっきりと表われていた。

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