初音ミク仕様のGTマシンとレースクイーン衣装のデザインの裏側。「根っからのオタクなので完全再現したいのですが......」 (2ページ目)

  • 川原田 剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi
  • photo by Orihara Hiroyuki © neco / CFM

カッコよさと性能担保のせめぎ合い

 GSRが使用するレーシングカー、Mercedes-AMG GT3のボディパネルは、屋根を除いてすべてカーボン製で色は黒。そこに印刷したステッカーを貼ってデザインを実現していくが、ステッカーの層が多ければ当然重量が増え、重ね張りを施した箇所は空気抵抗も上がる。レースはコンマ1秒の差が勝負を決する世界。八塚さんはマシンのパフォーマンスにできるだけ影響を与えないよう、重ね張りを極力しないことも意識した。

「複雑なデザインにすると3層、4層と重ねて貼らないと実現不能な箇所が出てしまいます。カッコよさだけを考えれば、何層貼りかなんて考えずにデザインしたいところですが、レーシングカーとしての性能が落ちてしまったでは本末転倒ですからね」

マシンの曲線や凹凸を踏まえながらカラーリングデザインを固めていくマシンの曲線や凹凸を踏まえながらカラーリングデザインを固めていくこの記事に関連する写真を見るGSRドライバーの谷口信輝選手GSRドライバーの谷口信輝選手この記事に関連する写真を見る 八塚さんの普段の業務は、グッドスマイルカンパニーの主力商品であるフィギュアのパッケージや販促ポスターなど、主に平面に出力するデザインを手掛けている。しかし、レーシングカーのカラーリングデザインは、「複雑な立体なので、表現したいことを実現する方法を考えながらデザインするところが難しい」と説明する。

「レーシングカーのボディは全体が曲線で構成されていますし、冷却のための穴が開いていて微妙な凹凸があったり、写真だけはわからない部分が多くあります。実際にマシンを見て、自分の手で触れて、ボディの形状を十分に理解してからデザインしていきますが、それでもコンピューターの画面上でデザインしていると、頭の中でうまくイメージしきれないことがあります。たとえば、マシンのサイドに1本ラインを入れるだけでも、本当にきれいにつながっていくのかがわからなくなるのです。そのため、常にプラモデルのボディを手元に置いて、実際にペンでラインを引いてみて、きちんとつながるのか、きれいに見えるのかと検証しながら作業を進めています」

 さまざまな苦労の末に完成した2022年のカラーリング。八塚さんは「前年からイメージを一新するのはすごくハードでしたが、何とかやり遂げることができました」と充実した表情で語っていた。

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