なぜ2021年のF1が「史上最高のシーズン」となったのか。中野信治が指摘する大手メディア企業の存在

  • 川原田 剛●構成 text by Kawarada Tsuyoshi
  • 桜井淳雄、村上庄吾●写真 photo by Sakurai Atsuo, Murakami Shogo

 F1が今後も世界最高峰のレースとして存在し続けるために、何をすればファンの心に刺さるのか。今は、その答えを探るための試行錯誤の期間だと思っています。2021年から試験的にスプリントレースを導入したり、各ドライバーのコーナーでの走行データをグラフで示したり、レースの裏側をエンターテイメント要素として取り入れることもそのひとつです。

 サーキット上の戦いのレベルをしっかりと保ちながら、ファンを楽しませるためのエンターテイメント要素をどれだけ取り込めるのか。スポーツとショーのバランスをどのようにするのか。いろいろな試みをすることが今、非常に大事だと思っていますので、戦っているチームやドライバー側も、見ているファンも変化を受け入れる必要があるのかなと感じています。もしいきすぎている部分があれば、運営サイドは修正してくるはず。何が正しいかどうかという判断は、もうちょっと時間が経ってからでいいのではないかと個人的には思っています。

 ルールに関しても、杓子定規に運用するのではなく、結果に大きな影響を与えない程度のペナルティーを与えてレースを続けることを最優先にするというシーンが2021年シーズンは何度か見られました。それもリバティ・メディアやFIAがレースをおもしろくするための、ある種の計算だったと思います。

 とはいえ、いくら運営サイドにそんな計算や思惑があったとしても、2チームのドライバーが最終戦の最終ラップまでタイトルを争うという映画のような展開になるなんてあり得ないんです。じゃあ、なぜそんなシーズンになったかと言えば、ハミルトンとフェルスタッペンというふたりの天才がいて、彼らを支えるメルセデスとレッドブル・ホンダという高い能力を備えたチームがあったからです。

 彼らがコース上ですばらしい戦いを見せてくれたことで、世界中のファンがF1のすごさをあらためて認識したと思います。今、僕はホンダの若手ドライバーの育成プロジェクトに携わっていますが、魅力的な世界だからこそ、あそこで走ってみたいという若者がどんどん出てきてほしいと思っています。同じように、いつかF1のスポンサーをしてみたい、メカニックやエンジニアになりたい、チームオーナーをやってみたいと思った人もいるかもしれませんね。

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