レッドブル・ホンダ、劇的な大逆転勝利の裏側。「我々に失うものはありません」メルセデスAMGより先に動いた

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • photo by BOOZY

 極めてリスキーで、極めてアグレッシブな戦略だった。ホーナー代表は緊迫したその場面を、こう振り返る。

「ハードタイヤに履き替えて10周ほど経った28周目あたりから、2ストップ作戦を検討していた。マックスはかなりメルセデスAMG勢にプッシュされていたし、彼らはドライバーたちにプレッシャーをかけ続けろと指示していたから、2ストップ作戦に切り替えるつもりなのだろうと我々は考えたんだ。

 マックスも『このタイヤで最後まで行けるとは思わない』とフィードバックしてきた。だから、ストラテジスト(レース戦略担当エンジニア)が私の前に戦略の選択肢を提示して『我々に失うものはありません』と言ってきた時、我々はその引き金を引いたんだ」

 先に動かなければ、負ける。1カ月前のバルセロナと、2年前のハンガロリンクと、同じ敗北を味わうことになる。だから32周目、レッドブルは動いた。

 そこからフェルスタッペンは、フレッシュなタイヤで驚異的なタイムを連発する。徐々にタイヤの性能が低下していたにもかかわらず、19.5秒差を挽回し、ボッタスを一発で仕留め、そして残り1周半でハミルトンも抜き去った。

 土曜日から薄いリアウイングを装着した影響は、路面のラバーが流れて風の強い決勝のコンディションではマシンを不安定なものにした。しかし、フェルスタッペンはそれを乗りこなしながら、薄いウイングが与えてくれるストレートの速さを最大限に生かしたバトルを見せた。

 攻めの戦略と、完璧なドライビング。すべてが噛み合って勝ち取った、劇的な大逆転優勝だった。

「レースをリードしながら残り21周でピットインするのは、決して簡単な決断ではなかった。だが、我々はそれをやったんだ。あとはマックスの手にかかっていた。そして彼がコース上ですばらしい走りをして、ポジションを取り戻してくれた。とくにボッタスをすぐに抜くのが非常に重要な要素だった。そして最後はルイスも抜いた。残り1周半でバルセロナの雪辱を果たしたような感じだね」(ホーナー代表)

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る