MotoGP次代を担う超逸材がポールポジション獲得。時代は動きつつある

  • 西村 章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 日曜のレースでは、序盤からトップを快走した。終盤周回になってようやく、したたかな追い上げで肉迫してきたクアルタラロやザルコに前を奪われたが、それでも後ろとのわずかな差をしっかりと維持して3位でゴール。MotoGP2戦目での初表彰台という快挙を達成した。そして、表彰式後の会見では、新型コロナウイルス感染症により2月23日に逝去したグレシーニレーシングのオーナーマネージャー、ファウスト・グレシーニ氏への弔意と感謝を表し、「この表彰台を捧げたい」と述べた。

 マルティンは、Moto3時代の17年と18年に、グレシーニレーシングのMoto3チームに所属していた。彼に最初にインタビューをしたのが、このグレシーニレーシングのMoto3時代だった。フランスのル・マンサーキットで、レースウィークが始まる前の木曜にアポイントを取っていたのだが、マルティンは交通事情で到着が遅れ、インタビュー予定時間を少々過ぎた頃に、リュックサックを背負ったまま慌てて取材場所へ駆け込んできた。交通事情とはいえ遅れてしまったことを汗も拭かずに謝罪し、「じゃ、さっそく始めましょう」と積極的な姿勢でインタビューに応じた。

 このときのマルティンは19歳。家庭があまり裕福ではなかったことや、マドリーのハラマサーキット近郊で育ったことなどを正直に述べた。前年まではインドのマヒンドラというマシンで戦っていたが、このシーズンからホンダ陣営のグレシーニレーシングへ移籍し、連続してポールポジションを獲得。表彰台にも立て続けに登壇した。

 この成績向上について訊ねると「ぼくはもともと速いライダーなんだ。去年はマシンで苦戦したけど、今年はホンダの高い性能を発揮できることもあって、自分本来の力を出せるようになってきた」と落ち着いた口ぶりで述べた。19歳という若さにもかかわらず、自分の能力に対する揺るぎない自負が強い印象を残した。

 翌18年はチャンピオン争いをリードし、シーズン序盤には早々に翌年のMoto2昇格を決めた。その直後にインタビューを行なったときにも、ライダーとしての自信をさらに深めていることが口調の端々から感じ取れた。マルティンの才能を愛するチーム監督のグレシーニ氏とピットボックスで話す姿にも、ふたりの強い信頼関係がにじみ出ていた。「この選手は、近い将来にMotoGP界を背負うライダーに成長するのだろうな」と想像させるに充分な走りで、周囲の期待どおりにMoto3のタイトルを獲得。Moto2昇格後もトップチームに所属して高水準の走りを続け、今季から最高峰クラスに抜擢された。

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