ミルがMotoGP王者に。猛追を実現したスズキのマシン特性とは (3ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●写真 photo by Takeuchi Hidenobu

 同時に、スズキのマシン2020年型GSX-RRの高い戦闘力も、この頃から顕著になってきた。もともとの持ち味である機敏さや軽快な取り回しに加え、トップスピードや加速性でもライバル陣営と互角に勝負できる性能を発揮し、それが路面の温度条件や気象状況に左右されにくい満遍ない強さとなって、結果につながりはじめたのだ。特に、タイヤの摩耗に対して優しい特性は、レース中盤から終盤の追い上げという強力な武器になった。

 それがもっとも顕著に現れたのは、肩の負傷が癒えたリンスが、カタルーニャGPで見せた猛チャージだ。5列目13番グリッドからスタートしたにもかかわらず、驚異的な追い上げを見せて3位でゴール。2戦後のアラゴンGPでは、10番グリッドのスタートから優勝を達成した。このレースではミルも3位に入り、この結果によりランキング首位へ浮上した。

 その一方で、スズキには明らかな課題もある。1周のタイムアタックでスーパーラップを狙う土曜の予選では、ホンダやヤマハ、ドゥカティ勢に比して渾身の最速タイムを叩き出すという面で、まだライバル陣営に劣る。そのために、スターティンググリッドがどうしても後方になってしまうのだ。

 例えば、ミルとリンスが今季初めてダブル表彰台を達成したカタルーニャGPのスターティンググリッドは、それぞれ3列目8番手と5列目13番手。今回のバレンシアGPに至っては、チャンピオンを獲得したミルが4列目12番グリッド、リンスは5列目14番グリッドである。「猛烈な追い上げを見せる」という彼らの長所は、裏を返せば「猛烈に追い上げなければならない」という短所ともいえる。この課題を克服すれば、スズキはまさに王者に相応しい〈ホンモノの速さ〉を獲得することになるだろう。

 それでも、今年の彼らが圧倒的な戦闘力を発揮してきたことは万人の認めるところだ。来週の最終戦を残してライダーズタイトルはミルが獲得し、リンスは現在ランキング3番手。2番手につけているのは、今回のレースで優勝したフランコ・モルビデッリ(ペトロナス・ヤマハ SRT)で、リンスは4ポイントの僅差で迫っている。チームランキングはチーム・スズキ・エクスターのタイトルがすでに確定しており、コンストラクターズタイトルは、スズキとドゥカティが同点で並んでいる。来週の最終戦で、先にゴールをしたメーカーがこのタイトルを確保することになる。

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