もつれる今季のMotoGP。「コロナ失業」を味わった苦労人が予想外の優勝

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●写真 photo by Takeuchi Hidenobu

 たしかに、ペトルッチは雨で強さを発揮する。MotoGPクラスでは最も大柄な体格で、その体重の重さが、路面状態の不安定なウェットコンディションでタイヤをしっかり接地させてトラクションを稼ぐ効果もあるからなのだろう。例えば、17年の雨のオランダGPではバレンティーノ・ロッシと競い、僅差の2位で終えている。また、同年のサンマリノGPでは、7周目以降ずっとトップを走行するというMotoGPで初めての経験も味わった。だが、このときは最終ラップでマルク・マルケスにあっさりとオーバーテイクされて優勝を逃すという悲哀を噛みしめている。

 ル・マンでも、18年には2位、ドゥカティファクトリーに昇格した19年に3位を獲得している。ル・マンは得意、といいながらも、やはり優勝にはあと一歩届いていない。

 それだけに、彼が昨年の第6戦イタリアGPで悲願の初優勝を達成した際は、地元イタリアのレースファンがそろって喝采を送り、彼の人柄を知る人々からもたくさんの温かい共感を集めた。今回の優勝は、そのとき以来一年半ぶりの快挙だ。

「久々に勝つことができて、本当にうれしい。まさか、ここで勝てるとは思わなかった。自分の達成したことが、まだ信じられない」

 優勝記者会見でこう述べるペトルッチに、司会者が「ル・マンはホンダとヤマハがずっと勝ってきたコースで、ドゥカティで優勝したのは実はあなたが最初なんですよ」。

 そう告げられると、ペトルッチはうれしそうな表情で微笑んだ。この勝利により、20年シーズンのMotoGPは、9戦を終えて7人目の優勝者を生んだことになる。

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