ホンダのF1撤退は志半ばなのか。
株価上昇が物語る現実と未来への不安

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • photo by Boozy

 ホンダはミニバンの会社に成り下がったと揶揄する声もあるが、当時としては革新的だったミニバンを生み出したのはF1が与えてくれた有形無形の資産であり、それによって支えられているホンダはやはりF1がDNAなのだと思う。

 2015年にF1に復帰して苦戦が続いていたホンダのF1開発責任者に就任した浅木は、そういう猛獣みたいな技術者が檻に閉じ込められていると感じ、そういう人材が活躍できる組織作りを目指した。それもやはり、ホンダの原点回帰だったはずだ。

 ホンダは2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、F1に携わった技術者たちのノウハウを次世代の先進パワーユニット開発に生かしたいとしている(モータースポーツ活動を継続するという言い訳も立つ)。既存の自動車とはまったく違うモビリティを、第2期F1経験者の浅木がN BOXを生み出したように、第4期F1経験者たちに託したいのだろう。

 しかし、F1をやっているホンダだからこそ入社してきた技術者たちが、そこにモチベーションを見いだせるか。さらにいえば、F1はもうやらない優等生のホンダに、これから入社してくる技術者たちのなかから革新を生み出せる突拍子もない人材は生まれるだろうか。

「F1がホンダのDNA」と豪語する企業だからこそ飛び込んでくるような人材が減り、大企業だから入社するという優等生ばかりの企業になった先に待っている未来とは? いや、青山本社の上層部はすでにそうなっている。それこそが、F1を辞め、F1がDNAでなくなっていくホンダの未来に向けて感じる失望と不安だ。

 目の前のF1活動に話を戻そう。

 ホンダは2021年もF1にいる。2022年以降に向けて開発していた新構造のパワーユニットを、最終年となる2021年に前倒して投入し、ホンダのすべてを出し切るつもりだ。

 そのパワーユニットを持って、レッドブル、アルファタウリとともに頂点を目指す。もちろん、これまでの5勝で満足しているわけではなく、頂点を獲ってから辞めていくつもりだ。

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