MotoGPホンダの神童ダニ・ペドロサ。苦難を戦い抜いた小柄なヒーロー (2ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 125ccと250cc時代はホンダのフルサポートを受ける事実上のワークスチーム体制で、特に250cc時代は圧倒的な強さを見せた。その「神童」が、トップファクトリーのレプソル・ホンダ・チームから、いよいよ最高峰クラスのデビューを果たす。それだけに、スペイン人ファンの彼に対する期待には並々ならぬものがあった。ファクトリーのシートを用意したホンダ陣営の関係者にしても、その期待感は同様だっただろう。

 だが、ペドロサの小柄な体格は、990ccのモンスターマシンRC211Vを手足のように扱うには見るからに不利だった。その反面で、圧倒的な量の才能は、体格的な不利を補って余りあるようにも感じさせた。そんな大きな期待に包まれながら、2006年シーズンは開幕戦のスペインGPを迎えた。

 当時のスペインには人気バイク週刊誌が二つ存在していた。両誌ともMotoGPが開催される週は、いつも数十ページをレース特集記事に割き、競い合うように部数を伸ばしていた。スペインGPのレースウィークにそのバイク雑誌の記者たちと雑談を交わしていると、彼らがペドロサのデビュー戦にかける期待の大きさを、言葉の端々から感じ取ることができた。

 日曜のレースを終えて、結果は2位。優勝したドゥカティのロリス・カピロッシからは、やや後塵(こうじん)を拝した格好だ。だが、同じレプソル・ホンダ・チームで4年目のシーズンを迎えたニッキー・ヘイデンが3位でゴールしたことを見れば、ペドロサの最高峰クラスのデビュー戦2位というリザルトは、文句の付けどころがない上々の内容で、器の大きさを十分に示す結果だ。

 そして、レース後の質疑応答では、とつとつとした口調ながら「次はもっと速く走れると思います」と話して、その場にいた者たちを驚かせた。大言壮語をするような性格ではないだけに、この何気ないひとことからは自分自身の能力に対する大きな信頼をもうかがわせた。

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