22人ごぼう抜き。MotoGP王者マルク・マルケスは呆れるほど速い (4ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 13年に最高峰クラスのMotoGPへ昇格してから現在までの期間は、彼の裡に棲むこの両刃の剣を御し、意のままに操る方法を体得するための期間だったのだろう。それをある程度のレベルでうまく制御できるようになったからこそ、マルケスは、13年から現在に至るまで、最高峰クラスで6回の世界タイトルを獲得してきたのだ。ただ、これほどの高い資質を備えたライダーであっても、やはりときに過ちは犯しうる。だからこそ、人間同士が競い合うものごとには常に不確定要素が潜み、そしてそれこそがスポーツの醍醐味でもあるのだろう。

 さて、劇的なレースでMoto2のレースキャリアを締めくくったマルケスは、翌年からMotoGPへステップアップする。しかも、所属先はレプソル・ホンダ・チームだ。かつてミック・ドゥーハンが5年連覇を達成し、生きる伝説バレンティーノ・ロッシがその後を引き継いだトップチーム中のトップチームである。

 その後数年、チームは苦杯を舐めたものの、みなに愛されたニッキー・ヘイデンが栄光を取り戻し、近年ではケーシー・ストーナーが誰も寄せ付けない圧巻の強さをみせた。ストーナーが12年限りで現役を退いた場所に、新たにやってきたのがマルケスだ。レプソル・ホンダの歴史を作ってきた数々のライダーたちの衣鉢(いはつ)を継ぐ存在として、ホンダはもちろん、祖国スペインや世界中のレースファンが、当時19歳のこの若者に大きな期待を寄せていた。

 マルケスは、当然のように13年シーズン開幕前から大きな注目を集めていた。マレーシア・セパンサーキットで行なう2月のプレシーズンテストで、ドゥカティからヤマハへ復帰したばかりのバレンティーノ・ロッシはマルケスについて「自分が2000年に500ccマシンに初めて乗った時と同じ印象をもった」と述べた。きらめくような才能を開花させるもっともふさわしい場所へ最高の形で収まった、という含意だ。

 そして、こうも述べた。

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