2020.08.20

22人ごぼう抜き。MotoGP王者マルク・マルケスは呆れるほど速い

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 ラスト3周ではついにトップに立ち、あまつさえ2番手に1.2秒の差を開いて優勝してしまった。この優勝は、今までにマルケスが達成してきた数々の勝利の中でも、もっとも劇的なもののひとつといっていいだろう。

劇的な勝利をあげた2012年バレンシアGPの表彰台でのマルケス 後年にも、この時と似たような状況になった際には、マルケスはどれほど後方からでも、周囲のライダーたちとは異次元のスピードでひたすらトップを目指して走っていった。しかし、それらは必ずしも、この12年バレンシアGPのように大成功を収めたわけではない。

 例えば、18年のアルゼンチンGPでは、スタート時に犯した過失で、レース中にピットレーンをスロー走行するペナルティを科され、最後尾近くの19番手まで順位を下げた。そこから驚くべきペースで追い上げていったが、途中、他選手たちを危険に追いやり、転倒させてしまう選手もいた。最後は5番手でゴールしたにもかかわらず、そうした行為への懲罰としてゴールタイムに30秒のタイムを加算され、正式結果はポイント獲得圏外となった。

 また、もっとも記憶に新しいところでは、先日の7月19日のスペインGPも典型例だ。レース序盤にあわや転倒という瞬間を回避したものの、16番手まで大きく順位を下げた。そこから異次元のペースで追い上げ、レース終盤にはついに表彰台圏内まで到達してしまう。その常軌を逸した展開は、まるで少年漫画のようにドラマチックだった。しかし、残りわずか4周となったところで転倒。前回の冒頭で述べたように、右上腕を骨折してしまった。

 ともあれ、これらの事実から明らかなのは、マルケスの心の中の何かに火がついて尋常な状態でなくなった時、彼は周囲の選手とは異次元の速さを発揮するということだ。ただ、その才能は最高に劇的な結果をもたらすだけではなく、ときに自らに降りかかる災厄と化す場合もある、いわば「両刃の剣」のようなものなのかもしれない。