22人ごぼう抜き。MotoGP王者マルク・マルケスは呆れるほど速い (2ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 2週間後に行なわれた最終戦バレンシアGPは、チャンピオンをすでに獲得したマルケスにとっていわば消化試合のようなもので、リラックスして臨めるレースだった。タイトル獲得の凱旋大会として、母国ファンの前に勇姿を披露するための場といってもいい。しかし、Moto2クラス最後の一戦に彼はそのような生ぬるい態度で臨まなかった。むしろ、この時のレースは、マルク・マルケスがマルク・マルケスである理由を象徴するような内容になった。

 土曜午後の予選で、マルケスは最速のエスパルガロに次ぐ2番手タイムを記録した。だが、日曜の決勝はフロントロー2番グリッドではなく、最後尾の11列目33番グリッドに着いた。金曜のフリー走行で他選手と接触し、転倒させてしまったからだ。その行為に対するペナルティとして、レースディレクションの下した処分が、最後尾スタートの厳しい裁定だった。

 グリッドは3人が1列を構成し、各列の間は9メートル離れている。つまり、ポールポジションのエスパルガロから11列目最後尾グリッドのマルケスまで、90メートルの距離がスタート時点ですでに開いているというわけだ。

 しかし、全27周の決勝レースが始まると、マルケスは猛烈な追い上げを開始する。オープニングラップで22人をオーバーテイクし、1周目が終わった段階ですでに11番手まで浮上していた。文字どおりのごぼう抜きだ。

 プレスルームでは、最後尾スタートのマルケスが果たしてどんな走りを見せるのか、みなが固唾(かたず)を呑んで見守っていた。猛烈な勢いでコーナーごとに何台も抜き去っていくマルケスの走りに、最初のうちこそ感嘆の声が上がっていた。だが、まるで「ちぎっては投げ、ちぎっては投げ」という古典落語のほら話のような展開に、やがて呆れた感じの笑い声や拍手も起こり始めたように記憶している。

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