レッドブルKTM悲願のMotoGP初勝利。ダークホースの新人が劇的力走

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●写真 photo by Takeuchi Hidenobu

 今シーズンから最高峰へ昇格してきたビンダーは、16年にMoto3クラスのチャンピオンを獲得し、Moto2クラスにステップアップ。19年に熾烈(しれつ)なチャンピオン争いを繰り広げた。今季は世界最高峰カテゴリのKTMファクトリーチームへ抜擢され、大いに注目を集めた。とはいえ、プレシーズンテストでの走りは、やはりルーキーの域を脱するものではなかった。

「以前よりブレーキをうまく使えるようになったものの、学ぶべきことはまだたくさんある。一発タイムも出せるようになったけど、レースディスタンスを安定して走るのはまた別の話で、もっと経験がいる。1周をうまく走るのと20周をずっと高い水準で走るのは、レベルがまったく違うことだからね」

 開幕前のテストで述べた彼のコメントを振り返っても、初々しい謙虚さが目立つ。  シーズンが開幕し、ヘレスサーキットの初戦は13位で終えた。同じくヘレスでの連戦になった2戦目は転倒リタイア。さらに今回のチェコGPレースウィークでは、土曜の予選を終えて「明日の目標は、前回みたいに転倒しないこと」と冗談めかして語っていたが、これらの事実を見ても、日曜の決勝で優勝できるとは、ビンダー自身もおそらく予想していなかったのではないだろうか。

 しかし、事実は往々にして、現実的な予測を簡単に裏切るものだ。圧倒的なペースで独走優勝を果たしたビンダーに、レースのどの段階で優勝を確信したのか、と訊ねてみた。

「レースが始まった時は、逃げられるかどうかなんてわからなかった。タイヤがフレッシュなうちはいいペースで走れる自信があったけど、どこまで続けられるかなんてまったくの未知数だったし。でも、どこまで行けるかはわからなかったけど、チャンスをつかんだと感じた時に思い切って前へ出てみたんだ。(いい結果を出せなかったヘレスの)前2戦からたくさん学んだことが、今日のレースで生きたと思う。とにかく集中力を切らさず、最後までミスしないように心がけたよ」

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