引退までの苦闘と輝き。ホルヘ・ロレンソは清々しい表情で去った (5ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 レプソル・ホンダ・チームに移籍した19年、1987年生まれのロレンソは18年目のグランプリシーズンを迎えた。年齢は、すでに30歳を過ぎている。プレシーズンのトレーニングで左手を負傷し、万全の体調ではない状態で開幕を迎えたため、ホンダのマシン特性への順応には時間を要した。

 10位以下のリザルトが続く中、6月末の第8戦オランダGPの際に、初日の走行で転倒。これが原因で背中を痛めた。「こんなに辛く、苦しく、痛い思いをし、リスクをかけてまで走り続ける必要があるのか......」。大きくもんどり打ってコースサイドを転がるロレンソの頭の隅で、そんな思いがよぎった。その後約2カ月後の8月、イギリスGPで復帰したものの、万全ではない体調のために厳しいレースが続き、成績は向上しなかった。そして、最終戦バレンシアGPの直前に「会見を開く」という告知があった。

 この知らせで、みなが引退を察知した。

 地元スペイン、しかも故郷のマヨルカに近いバレンシアGPでの発表だった。走行が始まる前日の木曜に行なわれた会見で、自らの口から現役生活を退く決意を述べた際には、満場の関係者や記者席からしばらく拍手が鳴り止まなかった。

 現役最後のレースは、13位でチェッカーフラッグを受けた。

 最後のレースを走り終えたロレンソの囲み取材で、彼にひとつ、質問を投げかけた。

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