不屈のホルヘ・ロレンソ、ロッシと一触即発。MotoGPでも大暴れ (2ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 ヤマハが、ロッシの次の時代を担うライダーを必要としていたのは事実だ。ロレンソをファクトリーチームに抜擢(ばってき)した理由のひとつでもあった。ロッシ自身も、それを敏感に察知していた。だからこそ、自分の地位を脅かしかねない若いロレンソの台頭を警戒し、敵愾心(てきがいしん)といっていいほどの露骨なライバル意識をあらわにした。

 このシーズン、ロッシはブリヂストンタイヤを装着し、一方のロレンソはミシュランタイヤを使用していた。その背景の事情については、少し説明の必要があるかもしれない。

 ヤマハへ移籍してきた04年と05年にチャンピオンを獲得したロッシは、06年はニッキー・ヘイデンに、07年はケーシー・ストーナーにタイトルを奪われていた。08年こそは、何としてでも王座を奪還しなければならない重要なシーズンだった。そのために、ロッシは使用タイヤをミシュランからストーナーと同じブリヂストンへスイッチした。これは、昨年度王者と同一条件で争えば、自分は絶対に負けないという強烈な自信の表れでもあった。

 一般的に、タイヤメーカーはチームと供給契約を結ぶため、1チームに選手が複数人いる場合は、全員が同じタイヤを使用する。しかし、08年のヤマハファクトリーチームは、ロッシがブリヂストンへ鞍替えし、チームメイトのロレンソは従来どおりにミシュランを使用するという変則的な体制になった。

 これに伴い、チームのピットガレージは、両選手の間が、高い衝立(ついたて)で仕切られることになった。異なるタイヤメーカーの情報をそれぞれ秘匿するためだ。しかし、同時にその衝立は、ロッシがロレンソに抱くライバル意識と、その反作用としてロレンソからロッシに向けられる対抗意識という、ふたつの強い個性を衝突させない緩衝材として、「壁」の役割も果たしていた。

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